問題は、なぜこんなことが業界をまたいで起こっており、そのどこに問題があるか、です。
この手のことが起こっている、一番の理由は、やはり日本の雇用規制にあると私は思います。大企業は簡単に正社員を解雇できないため、使い回しの効かないスペシャリストを社内に正社員として抱えることを嫌うのです。
その結果、エンジニアと言えども、会社は使い回しが効くゼネラリスト・管理職として育成したがるため、本当の意味でのエンジニアリング(ソフトウェア業界で言えば、プログラミング)の仕事は下請けに任せ、正社員には上流の仕事(仕様書の作成、下請け管理)をすることになるのです。
もちろん、理由はそれだけではありません。国沢光宏氏が指摘するように、得意でないものはパートナー企業に任せてしまった方が良いのは事実だし、その企業が複数の企業に同じ技術を提供することにより、規模の経済が働いて、コストダウンにつながるという面もあります。
実際、製造業で最も成功しているAppleも、多くの部品を外部のパートナーに依存しています。カメラ、ディスプレイ、タッチセンサー、アンテナ、重力センサー、通信モジュール、バイブレーター、などなどです。
では、この手の技術を外部のパートナーから調達し、自分たちは「上流工程」だけに徹するやり方にどんな問題があるのでしょうか?
その答えは、「どこで勝負するのか」にあります。
Appleは、多くの部品をパートナー企業から調達しているものの、OSとCPU(ただしARMコアは除く)だけは自分で作ることにこだわっています。GPUも少し前までは、外部から調達していましたが、A11からは独自のGPUに切り替えました。つまり、Appleの経営陣は、iPhoneのパフォーマンスに直接関わりがあるOSとCPU/GPUこそが差別化要因になると考えて自前で作ることにこだわり、カメラやディスプレイに関しては、外から調達した方が、安くて良いものが手に入ると考えているのです。
ホンダを辞めたエンジニアのブログに欠けているのは、ホンダがどこで勝負する会社だと現経営陣が考えており、それが果たして正しいのか、という議論です。
少し前までは、自動車メーカーにとってはエンジンこそが命であり、そこが一番の差別化要因になっていたことは事実です。しかし、制御システムや操作パネルが電子化される中で、その手の技術開発に必要なエンジニアを社内に育てずに、外部のベンダーに頼りすぎてしまった可能性は十分にあると思います。
当初は、小さな電子部品に過ぎなかったものが、次第に重要性を増し、Tesla車に至っては「走るコンピュータ」と言って良いほどに育ってしまうとは、20年前の自動車メーカーで働く人たちには、想像も出来なかったのだと思います。
そして2018年の今、EV化、自動運転、コネクティビティ、シェアリング・エコノミーという大きな変化に見舞われている中で、そこで勝負するためのキーとなるソフトウェア・エンジニアを内部に育てて来なかったことが、自動車メーカーにとって大きな足かせになっているのだと私は思います。