震災にも負けない~住民も絶賛する地元戦略
9月6日、北海道で発生した北海道胆振東部地震。震源から離れた札幌市内でも、一部地域で家や道路がガタガタになってしまった。さらに道民を苦しめたのが北海道全域で起こった大規模停電だった。
震災の影響は六花亭にも。停電により工場の生産はストップ。商品の各店舗への供給も、ままならない状態となった。それでも六花亭は、震災当日から営業。自動ドアを開け放ったままにして、地元の客のために店を開け続けたという。
地元の人たちに愛され、町と共に残っていく会社でありたい。そんな小田の思いは形にもなっている。美術館のような美しい建築の六花の森工場の前には、緑の空間が広がっている。六花亭が所有する庭園「六花の森」。北海道に自生する植物が400種類も集められ、四季折々の花々が、目を楽しませてくれる。敷地面積は10万平方メートルと、東京ドーム約2個分。この素晴らしい環境を楽しんでもらおうと一般の人達にも公開している(入園料800円)。「『帯広十勝に六花亭があって良かった』と地元の人が誇りにしてくれる、かけがえのない企業をつくりたい」(小田)という思いからだ。
札幌市内につくったのは「六花文庫」。以前、歯医者の診療所だった築75年の木造一戸建て。秋にはツタが紅葉し、鮮やかに色づくこの建物を買い上げて、地域の人が誰でも利用できる図書館にした。棚に並ぶのは食に関する本ばかり8000冊をそろえた。時間を重ねることで価値を増す。こうした歴史的な建物を美術館などに変え、地域の財産として残していく。これが小田流の社会貢献なのだ。
~村上龍の編集後記~
「六花亭」のお菓子は非常に有名だが、物産展以外では都内のデパ地下で買えない。マルセイバターサンドは発売から40年以上、流行には追随しないという考え方だが、商品は洗練されている。売り上げは追わないらしいが、長期的には業績は上がっている。
小田さんご自身も、取り上げるべき話題が多く、印象深く、型にはまらない人だった。だが、スタジオで最後に「孤独感がありますか」と聞いたとき「あります」という答えが返ってきて、素顔を見た気がした。
経営者は孤独に耐えて決定を下す。それ以外に、経営は、存在しない。
<出演者略歴> 小田豊(おだ・ゆたか)1947年、北海道生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、京都の老舗菓子店で修業。1972年、帯広千秋庵(現・六花亭製菓)入社。1995年、社長就任。2016年、社長を引退。六花亭食文化研究所所長。
(2018年10月4日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)