一昔前の子育て論は「人さまに恥ずかしくない子に厳しく育てる」べきとされ、「暖かい親子関係を育む」という観点は蔑ろにされてきました。今回の無料メルマガ『親力で決まる子供の将来』では著者で漫画『ドラゴン桜』の指南役としても知られる親野智可等さんが、子供のためにと厳しくし続けると親子関係がどういう事態になるか実例を挙げた上で、子育てとはどうあるべきかについて考察しています。
最高の親子関係と他人以上に冷え切った親子関係
これはある60代の男性の話です。その人は自分の息子を育てるに当たって、「世間に後ろ指を指されないきちんとした人間にしたい。大人になって本人が恥ずかしい思いをしないようにしっかりしつけたい」という気持ちが強くあったそうです。それで、息子が小さいときから「また○○してない。なんで○○しないんだ。○○しなきゃダメだ」と毎日叱って育てました。
あるとき、「使った物を片づけてなかったら捨てるぞ」と宣言しました。そして、子どもが作りかけのプラモデルや遊び途中のボードゲームを庭に捨てました。食べ物の好き嫌いを直そうと、子どもが嫌いな物を毎日食卓に出したり、無理矢理食べさせたりしました。正直な人間に育てたいと考えたので、子どもがちょっとでもウソをつくと徹底的に追究して叱りました。
一事が万事この調子でした。その結果、息子は何かにつけ自信がないおどおどした感じの青年になりました。当然ながら父親のことが大嫌いで、一緒の空気を吸うのも嫌だそうです。父親から離れたい一心で遠くの大学に進学し、そのままそちらで就職しました。
今は結婚して子どももいます。父親に会いたくないので結婚式は夫婦2人だけで済ませました。そして、年に一度だけ母親に会いにきます。父親がいない日を母親に教えてもらい一人で来ます。そして、母親に会ったらすぐ帰ります。
父親とはもう何年も会っていません。一生会うつもりはないそうです。自分の住所は両親共に知らせてありません。
父親は、自分のおこないを振り返って「叱りすぎた。もう一度息子が0歳の時からやり直せたら」と嘆いています。
本当は、親子だったら最高によい人間関係になれたはずです。ところが、他人以上に冷え切った関係になってしまいました。
この親子だけでなく、世間には他人以上に冷え切った親子関係はけっこうあります。その原因の第一歩はやはり親にあると言わざるを得ません。
親という権力的な立場に甘えて、「この子のためだ。しつけのためだ。ひどい言葉も親なら許される。自分の子どもに何の遠慮がいるのか?」とやりたい放題。その結果は自分で刈り取らなければならないのです。
今現在このような道を進みつつある人はいませんか?今すぐ方向転換してください。
初出『聖教新聞』(2012年3月23日から連載)
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