国民を騙して領土交渉?
繰り返しになるけれども、ラブロフ外相は「日本は南クリル(=北方領土)に対するロシアの主権を含め、第2次大戦の結果を完全に認めるべきで、それが交渉の出発点となる」と言った。
そこでまず安倍首相が今回「2島返還論」を採って、歯舞・色丹だけ返ってくればいいという姿勢に転換したという場合に、問題は2つあって、第1には、国後・択捉へのロシアの主権を日本が認めて返還要求を取り下げたことをロシアは当然のこととして歓迎するけれども、今まで4島が「不法占拠」されているとしてその一括返還を厳しく要求してきた政府の立場の変更を国内にどう説明するのか。安倍首相はまず国内に向かって、そのように方針転換をしようと思うのですがよろしいでしょうかと許しを求めなければならない。
第2には、では国後・択捉の主権主張を放棄すれば歯舞・色丹の主権はすんなり返ってくるのかと言えば、そうは簡単ではない。プーチンが言っているのは、歯舞・色丹は日本の主権下にあるから返して当然だというのではなくて、これらもロシア主権下にあるのではあるけれども、日ソ共同宣言の「日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して」──つまり端的に言ってロシアの特別に寛容な態度によって日本に対して恩恵を施すという意味で「引き渡す」のである。さてそこで問題は、「引き渡す」のは主権の全てなのか、主権はロシアに止まったままの施政権の部分的返還なのか、あるいは各種条件を定めた上での共同管理権なのか、といったようなことは、実は何も定まっていなくて、これからの交渉次第だというのである。
このような北方領土問題の難しさをありのままに国民に説明せず、むしろ本当のことを隠して切り抜けようという姿勢では、事が成就する訳がない。
image by: 首相官邸
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年1月28日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
※ 初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
2018年12月分
- [Vol.373]2018年を振り返る──改憲一頓挫で目標喪失の安倍政権(2018/12/24)
- [Vol.372]2019年の主な予定──平成が終わってさてその先は…(2018/12/17)
- [Vol.371]トランプは馬鹿である!──ウッドワード『恐怖の男』を読む(2018/12/10)
- [Vol.370]「戦略」を「構想」に置き換えても中国包囲網の本質は不変(2018/12/03)
※ 1ヶ月分864円(税込)で購入できます。