アカデミー賞への批判で浮き彫りになった、米国が抱える深い闇

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今年も全世界の注目を集めたアカデミー賞で、白人ドライバーと黒人ピアニストが1969年代初頭の人種差別が残る米国南部を舞台にした人間ドラマ『グリーンブック』が作品賞を受賞しましたが、その結果に批判が上がっています。映画の舞台となったアラバマ州で幼少期を過ごした健康社会学者の河合薫さんは今回、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で批判の内容を紹介するとともに、自身がアラバマ州で経験した「差別」と今も残る「黒人差別の歴史」の爪痕について記しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年2月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

アカデミー賞の裏にあるモノ

第91回アカデミー賞で、ピーター・ファレリー監督の『グリーンブックが作品賞の栄冠を勝ち取りました。多くのメディアが報道しているとおり今回は「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」の批判を逃れようとする姿勢がふしぶしに見られました。『グリーンブック』が受賞したことで歓喜の声が聞かれると思いきや、落胆する報道が相次いでいます

映画は実話に基づくもので、人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、ガサツなイタリア系用心棒とインテリな黒人天才ジャズピアニストが、コンサートツアーの旅を通じて深い絆で結ばれていくさまを描いていたものですが、「ホワイトスプレイニング白人が偉そうに説教すること)」との批判が上がっているのです。

AFP通信によれば、

  • 「『グリーンブック』は不愉快なほど鈍感」(米誌ニューヨーカー)
  • 「善意による白と黒のバランスはうわべだけの取り繕いという印象を生んだ」(英紙ガーディアン)
  • 「アカデミー賞の執拗で異様なほどの凡庸さ」(英ニュースサイトのインディペンデント)

といった具合です。

人は、誰もが例外なく「無意識バイアス」という、無自覚のうちに持つようになった物事への見方や考え方を持ち、それは無自覚であるが故に、排除するのが難しい。さらにその傾向は、学歴の高い人ほど強いことがいくつかの研究で示されています。

ですから、『グリーンブック』は、監督が白人マサチューセッツ大学やコロンビア大学で脚本を学んだエリートという時点で、映画を評価する人にバイアスがかかったのかもしれないし、監督自身も無意識に「ホワイトスプレイニング」してしまった可能性もあります。

どちらにせよ米国に張り巡らされた「人種問題の根深さを、色々な意味で痛感させられたアカデミーだったことは確かです。

そもそも映画のタイトルである「グリーンブック」は1936年から1966年まで刊行されていた黒人向けの旅行ガイドブックのことで、「ジムクロウ法」と呼ばれる有色人種の一般公共施設の利用を禁止する法律があったために黒人も利用できる全米のホテルやレストランなどをまとめ、毎年発行されていました。「グリーンブック」という名称は、創刊者のヴィクター・H・グリーンに由来しています。

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