炎上した南青山で老舗スーパー閉店。「買い物難民」報道は本当か

2019.03.25
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「洗練された大人の街に児童相談所はいらない」と建設反対の声が大きく報道され、ネット上で大炎上した東京・港区南青山の一部住民たち。はたして、南青山は今も変わらず「洗練された大人の街」のままなのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、現場に直接足を運んで取材を重ね、「子育て世代」が増えている南青山の現状と、過去の「幻想」に執着する住民との認識のズレについて詳しく分析しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

一部の南青山住民に根深く残る、過去のイメージへの執着と「新参者排除」意識

2月28日、南青山の老舗スーパー「ピーコックストア青山店」が老朽化したビルの建て替え工事のため、閉店した。一部報道によれば、南青山界隈では生鮮三品を扱うスーパーがないため、「買い物難民が発生する」と住民の危機感が高まり、区会議員まで動かして港区に販売を行うように要請しているとのことだった。

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しかし、実際に青山界隈を歩いてみると、地域のニーズを拾った新旧の小型スーパーが根付いており、食料品の調達に困る環境であるとは考えにくかった。むしろピーコックは、南青山のランドマークとしての役割を終えたのではないかとの感触を得た。

また、現在の青山通りはベビーカーを押した主婦、ファミリーが目立ち、界隈の高層マンションの建設ラッシュで、子育て世代が増えている。

「洗練された大人の街に児童相談所は要らない」と、一部地元住民が港区による児童相談所の建設に反対運動を起こしていたが、現状認識がズレている。

高度成長期に住民がどんどん郊外へ移って空洞化していた頃の南青山では、その代わりにオフィス、商業、飲食業を誘致しなければならなかったが、いま必要なのは旧来の青山ブランドを維持するための商用目的で現実離れしたような「夢の空間の創造」ではない。新しいファミリーも安心して暮らせる、生活感ある住み良い南青山の街の構築なのである。

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南青山では子育て世代が増えている

ピーコック閉店を巡る買物難民発生問題と児童相談所反対運動に共通するのは、南青山住民の一部に根深くある、時代に取り残され、過去のイメージにすがりつく頑迷な新参者排除の意識であった。

南青山で「ピーコックストア」閉店に「買い物難民」報道の真偽

まず、指摘しておきたいのは、「ピーコックストア」が閉店しても、買物難民は出ていないだろうということだ。

ピーコックは青山通り沿いの外苑西通り(通称キラー通り)とクロスする南青山交差点からすぐ西側に位置していたが、交差点からすぐ東には輸入品に強い高級スーパーの「成城石井」が進出しており、南青山の住民のニーズに合った高品質の商品を提供している。しかも24時間営業で、いつでも買えるメリットがある。

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成城石井はピーコックとコンセプトが被るうえに、商品開発力、品揃えの自在性など多くの優位点を持った勢いのあるスーパーだ。

● スーパー不振の中、「成城石井」が絶好調であり続ける納得の理由

また、南青山1丁目駅のすぐ南のタワーマンション「パークアクシス青山一丁目タワー」1階には、イオンの子会社まいばすけっと(本社・千葉市美浜区)が経営する都市型食品ミニスーパー「まいばすけっと」があり、リーズナブルに買物をしたいのならば1丁目まで出れば十分である。

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さらには、「成城石井」のすぐ向かいの青山通り沿い、北青山にはイオンの新業態「ヴィルマルシェ」1号店が2016年11月にオープンしている。経営はイオンリテール(本社・千葉市美浜区)。体にいいものを揃えたおしゃれな雰囲気のスーパーで、食料品だけでなく、化粧品や雑貨も販売している。

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成城石井の商品はおしゃれではあるが、体にいいかどうかにはそれほどこだわっていない。直接の衝突を避けた顧客の開拓を狙っている。

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成城石井で販売されている青果

表参道の西側には、イオンがフランスから持ってきた、イオンサヴール(本社・千葉市美浜区)が経営する冷凍食品専門のユニークな高級スーパー「ピカール」日本1号店が骨董通り(高樹町通り)沿いに、同じく16年11月にはオープンしており、高収入ではあるが共働きでご飯をつくる余裕のない主婦のニーズにこたえている。

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フランスから直輸入した他店では買えない商品が揃う特別感のある店だ。

● 青山や中目黒の奥様が殺到、パリ発「冷凍食品スーパー」が急拡大

成城石井やイオン系列の店ばかりではない。表参道の西側、北青山には自然派食品・有機野菜などを売る「ナチュラルハウス」、さらには2008年にビル建て替えを終えて再オープンした高級スーパー、紀ノ国屋本店「紀ノ国屋インターナショナル」もある。百貨店のように中にテナントが入るスタイルは、ピーコックと競合しており、老朽化したピーコックよりも優位に立っていた。

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紀ノ国屋インターナショナル

このように、ピーコックの穴を埋める6店ものスーパーが南青山及び、北青山の青山通り沿いにあるのだ。

コンビニも、南青山には、2~3ブロックごとくらいには点在していて、半分くらいの店では、ほんの1コーナーではあっても野菜の販売を行っていることが確認できた。

鮮魚の買える店が少ないというが、南青山2丁目には「魚仙」という、戦前から3代続く老舗の魚屋が青山通りからちょっと路地に入った場所にある。確かに全般に鮮魚は手薄ではあるが、ナチュラルハウス、紀ノ国屋、魚仙と回れば、特殊な魚でなければ手に入るだろう。

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老舗鮮魚店「魚仙」

それでも、もっと多くの魚種から選びたいというのなら、渋谷区にはなるが並木橋に「ライフ」があるし、西武百貨店渋谷店には南青山のピーコックにもテナントとして入っていた鮮魚専門店チェーン「魚喜」がある。いずれも、ちょっと頑張れば歩いても行けるような距離で、さほどの不自由もないと思われる。

ホームセンターで売っているような生活雑貨は、ピーコックストアの道向いの北青山に「オリンピック」が充実の品揃えを誇っている。

要はイオングループとしてはピーコックが地域の実情に合わなくなった代案として、南青山の東端に「まいばすけっと」、西端に「ピカール」、北青山の中央に「ヴィルマルシェ」を配して、万全の新しい店舗シフトで、ピーコックの閉店を迎えていたと見受けられる。

新業態のピカールは6店、ヴィルマルシェは赤坂にも店ができて2店となっており、いずれも実験段階にあるが、新しい都市住民にこたえようと懸命である。

ピーコックは輸入品を扱うなど高級感ある品揃えが魅力のスーパーではあるが、地場の紀ノ国屋はパワーアップした上に、すぐ近くに成城石井という強い競合店が出てきてしまった。鮮魚くらいしか、勝てるものがなかったのが実態で、閉店はやむを得なかった。

閉店したピーコックストア跡

閉店したピーコックストア

地元に長く在った店が惜しまれるのは当然だが、「明日からどこに買いに行けばいいのかわからない」といった、一部の住民の感傷を真に受けて、行政が生鮮の販売に乗り出せば民業圧迫になりかねない。これだけの店舗数があれば十分であるからだ。

現在、ピーコックは2013年よりイオン傘下イオンマーケット(本社・東京都杉並区)が経営している。07年の大丸と松坂屋の経営統合によるJ.フロントリテイリングの発足時には、創業の頃からの大丸ピーコックを屋号として名乗っていたが、13年に改名していた。

青山店は大丸のスーパー部門、大丸ピーコックの関東初進出店として、1964年にオープン。五光ビルの地下1階から3階に出店し、食料品、衣料品、ファッション雑貨などを売り、紀ノ国屋と張り合う品質も評価されて、店の前にバス停も開設されるほどであったが、近年は売上が低迷していた。特に百貨店並みの品揃えを誇ったファッション商品が売れなくなり、実用的な商品と入れ替えてしのぐ苦しさだった。

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