炎上した南青山で老舗スーパー閉店。「買い物難民」報道は本当か

2019.03.25
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作られた「青山ブランド」の終焉。街の歴史を紐解いて見えた、本来の土地柄

青山の歴史を紐解いてみると、江戸時代は江戸市街の辺縁部にあり、武家屋敷が立ち並ぶ屋敷町であった。青山の地名は、三河国の戦国大名であった頃からの徳川家の家臣で、江戸時代になって譜代大名となった青山氏によっており、赤坂御門から丹沢の霊山として知られた大山まで大山詣のために整備された、大山街道(現・青山通り)の北側に宗家・丹波国篠山城主で篠山藩6万石(現在の兵庫県篠山市を中心とする)の下屋敷、南側に分家・美濃国八幡城主で郡上藩4万8,000石(現在の岐阜県郡上市を中心とする)の下屋敷が対峙していた。

南青山も北青山も、徳川家康からの信任が厚く、江戸町奉行さらに老中にまで上り詰める青山忠成に与えられた土地に由来する青山には違いないのだが、こうした歴史的な事情で、隣接する別の地域という意識を持った住人もいるのだ。

現在の青山霊園のほぼ全域が郡上藩青山氏の下屋敷跡であるという。小大名とは思えない大変な広大さで、梅窓院は菩提寺となっている。なお現在の梅窓院本堂は2004年に、建築家の隈研吾のデザインで建て替えられている。

また、青山の初夏の行事として、1994年から6月末には「郡上おどりin青山」が本場・郡上おどり保存会を招いて、開催されている。

江戸時代には青山氏に限らず、大名の屋敷が立ち並んだ青山だが、明治になって東京市が成立するにあたり赤坂区に編入された。1890年には陸軍大学校が、現在の北青山1丁目港区立青山中学校の辺りに移転し、太平洋戦争終戦まで存続した。陸軍近衛歩兵第4連隊、陸軍第1師団司令部も近辺にあった。

そうした事情から、青山は軍関係者や高級官僚たちが住む屋敷街に再編されていった。

戦後になって1946年、現在の代々木公園を中心とする一帯に、アメリカ空軍が建設した兵舎・住居の「ワシントンハイツ」は、青山の今日の発展に大きな影響を及ぼした。

その「ワシントンハイツ」に生鮮食料品を卸していた地元の青果店の紀ノ国屋が、当施設内のセルフサービスによる食料品店スーパーマーケットに感銘を受け、53年北青山に日本第1号のスーパーをオープンした。

その一方、空襲によってほぼ焼け野原となった状態から復興してきた屋敷街も健在で、青山通りなどの商店は御用聞きに回って注文を取る商売が主流だったという。なお、47年には、赤坂区、芝区、麻布区が合併して港区となっている。

1964年の東京オリンピックに向けた東京大改造の一環として、青山通りが22メートルから40メートルの道幅へと倍近くに拡張され、都電を廃止。現在のような広い車道と、歩道を持つ通りとなった。

ピーコックが出店したのは、まさにこのタイミングで、斬新なスーパーをコアにした地域の小型百貨店の試みとして登場したので、大きなインパクトを与えた。この頃、青山は紀ノ国屋とピーコックを擁して、日本で最も進んだ流通業の聖地だった。

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ピーコックストア跡

同じく64年、東京オリンピックの日本選手団の赤いジャケットをデザインした、石津謙介率いるVANヂャケットが青山に本社を構え、アイビーファッションを若者の間に大流行させた。VANはオフィス、ブティック、飲食店、ホールなどをどんどんとつくっていった。

三宅一生、コシノジュンコら、台頭してきた日本のファッションデザイナーたちも、青山、表参道、原宿を拠点とするようになり、現在のおしゃれな大人の街、青山が形成されたのである。

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コシノジュンコが命名したと言われる「キラー通り」

だが、前回の東京オリンピックを契機につくられていった青山は終わった。南青山のピーコックの閉店と児童相談所の建設はそれを象徴する出来事だ。76年に建設され、同じく青山のランドマークと言われたファッションビルのはしり「青山ベルコモンズ」も既に解体されて、再開発が行われている。

2020年の東京オリンピックを機に、青山はもともとの土地のDNAである、高所得者が住む街へと緩やかに回帰していくだろう。

おしゃれな街・青山は、前回の東京オリンピックと高度成長が生み出した、たかだか50年ほどの物語で、それ以前の住宅街こそが青山の本来の姿だ。かと言っておしゃれの街・青山がなくなってしまうのではなく、高層マンションの住民の生活感に根ざした新しいスタイルへと変質していくのである。

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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