間違いだらけの30年。米の尻を追って世界で孤立した日本の平成

 

世界は米国を必要としなくなってしまった!

トッドは『帝国以後』の和訳版のために書いた「日本の読者へ」でこう述べた。

つい最近まで国際秩序の要因であった米国は、ますます明瞭に秩序破壊の要因となりつつある。イラク戦争突入と世界平和の破棄はこの観点からすると決定的要因である。10年以上に及ぶ経済封鎖で疲弊した人口2,300万の低開発国イラクに世界一の大国=米国が仕掛けた侵略戦争は、“演劇的小規模軍事行動主義”のこの上ない具体例に他ならない。

弱者を攻撃するというのは、自分の強さを人に納得させる良い手とは言えない。戦略的に取るに足らない敵を攻撃することによって、米国は己が相変わらず世界にとって欠かすことのできない強国であると主張しているのだが、しかし世界はそのような米国を必要としない。軍国主義的で、せわしなく動き回り、定見もなく、不安に駆られ、己の国内の混乱を世界中に投影する、そんな米国は。

ところが米国は世界なしではやっていけなくなっている。貿易赤字は、本書の刊行(02年)以来さらに増大し、外国から流入する資金フローへの依存もさらに深刻化している。米国がじたばたと足をかき、ユーラシアの真ん中で象徴的軍事行動を演出しているのは、世界の資金の流れの中心としての地位を維持するためなのである。そうやって己の工業生産の弱体ぶり、飽くなき資金への欲求、略奪者的性格をわれわれに忘れさせようとしているのである。しかし戦争への歩みは、米国のリーダーシップを強化するどころか、逆にワシントンのあらゆる期待に反して、米国の国際的地位の急激な低落を生み出した。

米国はもはや財政的に言って世界規模の栄光の乞食にすぎず、対外政策のための経済的・財政的手段を持たないのである。経済制裁や金融フロー中断の脅しは、もちろん世界経済にとって破滅的には違いないが、それでまず最初に打撃を受けるのは、あらゆる種類の供給について世界に依存している米国自身なのだ。アメリカ・システムが段階を追って崩壊していくのはそのためである。

“超大国米国”というのは、習慣だけに支えられた神話にすぎない。どこかの国がゲームの規則を守るのを止めて、米国に“ノー”を言おうものなら、直ちに……と思いきや、何と一同が驚いたことに、何も起こりはしないのである……。

トッドがこの「日本の読者へ」を書いたのは2003年のことで、当時は、米国の姿をこうまで言うのは言い過ぎだという批評もないではなかった。しかし今これを読めば、まさにこのような米国の病がますます深まって泥沼化したのがトランプ政権であることが理解できるだろう。そして、思い起こしてほしいのだが、マイケル・クレアが91年に見通していたように、ブッシュ父の“唯一超大国”幻想と、それにもとづく「戦争で経済の衰弱を解決」しようとする無駄な努力の行き着く先がトランプの「アメリカ・ファーストという最も低俗なジンゴイズム熱狂的な愛国主義)」だったということである。その意味でブッシュ父とトランプは真っ直ぐに繋がっている。

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