イチローの高校時代の恩師が回想する、鈴木一朗に教えられたこと

 

金字塔の陰にあるもの

プロ入り後の活躍は皆さんもご承知のとおりだが、入団1年目に彼は首脳陣からバッティングフォームを変えるようにと指示を受けたらしい。

「フォームを変えるか、そのまま二軍へ落ちるか」と厳しい選択を迫られた彼は、フォームの修正を拒否し自ら二軍落ちの道を選ぶ。そしてその苦境の中からあの振り子打法を完成させるのである。

その後も評論家からは「あんなフォームで打てる訳がない」などと酷評されたが、結局彼は自分の信念を押し通し、球界に数々の金字塔を打ち立てた。その根っこには、人並み外れた彼の頑固さと野球に対する一徹な姿勢があるのだと思う。

高校時代のイチローを思い出す時、必ず浮かんでくる場面がある。彼にとって高校生活最後の県大会。決勝戦で敗れ、惜しくも甲子園行きを逃したナインは試合後、抱き合いながら号泣していた。

イチローはうな垂れる選手たちを尻目に応援団席に歩み寄り、ユニフォームを着れなかったたった一人の同級生に「ごめんな」と声をかけていた。涙一つ見せずその表情は実にさばさばとしたもの。あの時、イチローの目はすでに、プロという次なる目標を見据えていたのだろう。

今年、イチローは大リーグで日米通算3,000本安打という偉業を達成したが、これも彼にとっては単なる通過点にしかすぎないのだと思う。

いまや世界のスーパースターになったにもかかわらず、彼は毎年正月になると私の元を訪ねてくる。その姿勢はどこまでも謙虚で少しも驕るところがない。

私がイチローを育てたと言われることがあるが、私は彼のことをただ見守ったにすぎない。私のほうが逆に、彼に教えられたことばかりである。

(『致知』2008年12月号より)

致知出版社この著者の記事一覧

京セラ・稲盛和夫氏、サッカー日本代表・岡田武史氏など、人間力を高める月刊誌『致知(ちち)』に登場した各界一流人の名言や仕事術など、あなたの「人間力アップ」に役立つ情報を配信中。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 致知出版社の「人間力メルマガ」 』

【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け