【書評】世界的投資家が、10歳の日本人だったらすぐ日本を去る訳

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世界三大投資家の一人にして、「予言」の的中率の高さでも知られるジム・ロジャーズ氏。そんな彼が「私が10歳の日本人ならただちに日本を去るだろう」と書く著書が話題となっています。ロジャーズ氏は、何を根拠にそう考えるのでしょうか。ライターの本郷香奈さんが同書をレビューしつつ、その理由を明かしています。

hk20190722金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する
ジム・ロジャーズ 著/PHP研究所

ジム・ロジャーズ氏は、言わずと知れた世界的に著名なアメリカ人投資家の一人である。リーマン・ショック、トランプ氏当選、北朝鮮開国など予言を次々に的中させてきた。本書はその人が自分の投資哲学を率直に語った本である。彼が今の世界をどう見て、どんなところに投資しているのか。本書は2019年の1月に出た本だが、約半年が経過してもその見通しは的確だ。

本書を通じて著者が強調しているのはアジアの可能性である。「これからはアジアの時代が来る」ということで、特に日本、朝鮮半島、中国について紙幅を割いて考えを示す。しかし、日本への視線は厳しい

本書に「私が10歳の日本人ならただちに日本を去るだろう」という言及がある。日本人としてはショックだが、なぜか。財政赤字の累増と少子高齢化による経済への悪影響の大きさゆえ、日本の先行きを案じているからだ。

特に気にしているのが財政赤字である。後に続く世代へのつけ回しなど、先行きへの厳しい見通しがあるからだ。ロジャーズ氏は10歳の子どもが40歳になるころは彼らの老後を保障する金は尽きていると大胆に予想する。それはまさに昨今取りざたされている2,000万円老後資金問題を先取りして紹介したかのようだ。

アベノミクスへの見方も厳しい。その代表的なものは、金融緩和(「紙幣を刷りまくる」とロジャーズ氏は表現)でアベノミクスは日本経済をだめにした、といつか言われるとの指摘である。さらに、移民の受け入れに消極的など、日本に長期的な時間軸はないとも言い切る。移民の適切なコントロールは大事だが、国を閉鎖して成功した例はないとも指摘する。

だがこうした日本でも生きる道はあると期待する。ロジャーズ氏は日本に投資するなら観光業農業教育ビジネスだという。その理由は、インバウンドはまだ伸び、農業分野は可能性があり、教育分野に活路があると考えるからだ。日本に来たい外国人学生は多く、積極的に受け入れる余地があると見る。

日本経済再興への提言も興味深い。日本の強みはあくなきクオリティの探求だという。これが日本を偉大にしたのであり、世界一の品質を捨てるような愚策など決して取ってはいけないし、低価格競争に流れてもいけないという。さらにまじめで真摯な仕事への取組み貯蓄率の高さも日本の強みであり、これらを今後も生かすべきだという。

一方で政策への注文も忘れない。具体的には歳出の大幅カット関税引き下げ慎重ではあるが移民受け入れだ。いかにもアメリカ人らしい発想という印象もあるが、これらはまさに現在の日本が抱える課題にほかならない。

そこで自分が40歳の日本人なら、農場を買い古民家チェーン事業を始め教育事業に着手すると具体的に表現する。逆風にさらされている日本だけに、こうした分野への注力は大事という主張には頷ける部分も多い。

日本へのシビアな見方の一方で、ロジャーズ氏が期待をかけるのが朝鮮半島である。大胆にも韓国と北朝鮮が統一されるとみる。国際政治の現状を見るとなかなか一足飛びにそこまではいかないとも思えるが、長期的にはそうしたスコープを持っている。それゆえ「韓国・北朝鮮は今後10-20年の間、投資家に注目される国になるだろう」と予想する。そして両国は互いの足らざる部分を補いあって、飛躍的に成長を遂げると見る。

たしかにこの予測後に歴史的な米朝会談はこれまで2019年2月と6月に2回行われた。核開発をめぐる交渉の難航で、まだ明確な成果は出ていないが、3回目の首脳会談の可能性も6月末時点では取りざたされている。そういう意味でも慧眼であろう。

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