憧れのネス湖でNY在住日本人社長が出会ったモンスターは「人間」

 

駐車場で交通整理しているおじいさんに「バス停ないけど、ここにいればいいんだよね、バスが来るよね」と聞くと、「ん?…ああ、まぁ」と頼りない返事。時刻表に書かれた時間になってもバスは来ない。ネス湖の真向かい。もうネッシーはいいから、バス、姿見せてくれよ(涙)と思った瞬間、目の前の車道をバスが全速力で通り過ぎました。どうして?

交通整理のおじいさんと目が合います。彼は慌てて目をそらす。逃さない。捕まえる。「そこの草むらに立つんだよ。立ってたら、バスがとまる…」と彼。「どうして、さっき教えてくれなかった?」と僕。「だって……聞かれてないから」と彼。その場にへたり込みます。もう、あと2時間待ってられない。

ホテルの2階の受付に行って、タクシーを呼んでもらう。太ったおばさんは「1階にタクシー呼び出し専用の電話があるから、そこでかけなさい」とひとこと。最初は僕が宿泊客ではないから、無愛想にされているのだと思ったけれど、今朝初めてみるこのおばさんは僕が宿泊客じゃないのを知らないはず。それでもこの対応。仕方ないので、1階のロビーまで降りて、呼び出し専用の電話を鳴らします。ずーっとコール。365日24時間留守なのか?

また2階の受付に。おばさんに「誰も出ないんだけど、本当にその電話で間違いない?」と聞くと「とにかくかけ続けなさい」とひとこと言って、デスクの下に目を落とします。また1階のロビー。電話を鳴らし続けます。だーれも出てこない。仕方ないからバスを待とうか、もう2時間。時間を潰す場所もない。WiFiもない。ネス湖ももう10時間以上眺めてる。そこで、あ!とあることに気づきます

インヴァネスの駅から次の予定地グラスゴーまでの鉄道は昼過ぎにはなくなってしまうことに。次のバスでは間に合わない。何もないところで野宿になりかねない。焦って、呼び出し電話を鳴らし続けます。泣きそうな顔をして(笑)。でも、誰も電話に出ません。焦ってる僕と、目があった交通整理のおじいさんは慌てて目をそらします。ふと気づく。今、そこの駐車場から立ち去った車、あれ、タクシーじゃない?観光客をこのホテルまで送ったタクシーが今、帰っていったよう。

電話に夢中で気づかなかった。おじいさん、僕を呼んでくれようとしたのか。でも、結局、呼んでくれなかったじゃん。むしろ、気づかないことを楽しんでいたのか。ぐったりとうなだれる。はっ、と顔を上げると、一瞬、ニヤリとおじいさんが笑ってるように見えました。多分、僕のただの被害妄想なのだと思いたい。もう一度、顔を上げる。今度は確実に、こちらを見て、ニヤリと笑い、肩をすくめました。

彼は僕のすぐ近くにいて、この数時間、僕がバスを待っていたことを知っている。何度もタクシーの呼び出し電話を鳴らしていることも知っている。どうして教えてくれなかった、と詰め寄ったところで、答えはまた決まっている。だって聞かれなかったから。

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