一般家庭では見られなくなってきた、床の間。目にする機会といえば、せいぜい旅先の宿くらいではないでしょうか。今回の無料メルマガ『ホテルの遊び方』では著者の西田淑子さんが、知らないままではもったいない、古い旅館が内包する建築技術の素晴らしさや、奥深い魅力に溢れた床の間の味わい方を指南しています。
古い旅館は謎解きの宝庫
こんにちは、ホテルの遊び方の西田淑子です。
古い旅館を取材してきて、分かったことは、日本の伝統的な建築技術の宝庫、ということです。ところが、その美しさだと、技術の凄さに、気がついていない人が多いことも分かりました。もったいないですね。
日本家屋の客間には、床の間があります。元来は、床のある部屋=床の間、で、その部屋の一段上がった部分=床、ですが、現在は、床=床の間、と認識されています。旅館の各部屋は、全て客間ですから、どの部屋にもおおよそ床の間があります。
床の間は、実際、とても自由にデザインされています。泊まった部屋以外の部屋も見ることが出来たら、そのデザインの違いに驚かれるでしょう。
西洋建築は、パッと見てすぐに分かる違いをデザインするのが特徴的です。日本建築は、パッと見て、なんとなく違いがあると思って、じっくりと分かっていくのが、西洋建築と比べて異なる特徴です。一種の謎解きのように楽しめます。
例えば、分かりやすいところで、床の間の柱、これは床柱(とこばしら)と言います。例えば、床柱に使う木材の種類、杉、ヒノキ、ケヤキ、シタン、コクタン、クワ…、その木材をどのように加工して使うか、より自然に近いまま使うか、どれだけ手を入れるか。木材と技術を組み合わせるだけでも、かなりの数になります。
それらが、殆どの旅館では、各客室に、異なるデザインを施しています。大工さんの腕の見せ所でもあったのでしょうね。
こういったことを知らなければ、単に古くて価値はないものだと、消去されていくだけです。
古い旅館は、謎解きの宝庫です。丸い竹を四角く育てる技術、床の間と天井板と床板の模様を対比させる美的感覚、人生の船出という意味を船底天井として表す柔軟な発想。
面白いですね。「日本の老舗」という小冊子に4ヶ月毎に取材文を書き続けています。その各号で、古い旅館を取材しています。
image by: Shutterstock.com