同じことは、中東地域への進出を加速させている中国にも言えます。アメリカ製のシステムへの信頼性が揺らいだことで、迅速かつ適切な後始末と対応がアメリカ側からもたらされない限り、もしかしたらビンサルマン皇太子は、ロシアと天秤にかける形で、中国への接近を加速させ、中国からの武器調達もしくは、共同開発に舵を切る可能性も否めません。
それは、今回の件にはあまり関わっていないとされる、エルドアン大統領のトルコの最近のギャンブルを見てみるとよく分かるかと思います。核弾頭も配備するNATO軍の主力基地をホストしながら、ロシア製のS400ミサイルの配備を決め、今後、武器の共同開発までロシアと行おうという動きが、どうもビンサルマン皇太子が選びそうなギャンブルと類似しているように思われるのです。
実際はどうであれ、確実に進むのは、中東地域の不安定化と軍事力強化に向けた動きです。サウジアラビアはこれで軍事力強化、特に核開発に進むかもしれませんし、その周辺国も“イラン対策”(同時に“イスラエル対策”)と称して、軍拡競争が進むかもしれません。
そして米ソ冷戦時代の軍拡と違うところは、その武器や兵器が、それぞれが支援する非政府組織の武装組織にも流され、武器のコントロールができなくなる恐れと、兵器の自動化による制御の困難さの向上です。
このまま進むと、決して国際協調や平和にとっては、好ましくない方向に進み、中東情勢はさらに不安定化することになるでしょう。もしかしたら、再度、中東戦争が勃発する引き金になるかもしません。
そして、そこに決定打を撃ちかねないのがトランプ政権内で高まるイラン攻撃論です。せっかくイランに対して超強硬派のボルトン補佐官を更迭してイランとの融和の可能性を高めましたが、今回の事件を受けて、ペンス副大統領やポンペオ国務長官、エスパー国防長官などがイランへの攻撃準備を整えていると発言し、トランプ大統領も「戦争は好ましくないが」と前置きしたうえで、「オプションはいつでもテーブルに乗っている」と発言するなど、米国政府は、自らの面子と、アメリカの兵器産業の利益を守るために、必要以上の強硬策に出る可能性が高まっているように思います。
北朝鮮問題そしてイランをめぐる問題で、一旦、対話モードが高まり、今年後半は緊張が緩和されるかと期待していましたが、一気に戦争の可能性が高まってきました。そのactorsが誰になるかは、現時点ではわかりませんが。私は非常に懸念を抱いています。
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