サウジの石油施設への無人機攻撃を読み解く。得をするのは誰か?

 

では、仮にイランの“誰か”だったらどうでしょうか。ハーマネイ師とロウハニ大統領がアメリカとの対決姿勢は崩さない中、緊張緩和(イラン的には、経済制裁の撤廃)のために対話の可能性を探っていますので、正規軍やハーマネイ師が実権を握る革命防衛隊そのものによる仕業とは考えづらいところです。

しかし、革命防衛隊に支援されているフーシー派や、国内の対米強硬派(その急先鋒がアフメニジャド元大統領の勢力)、イラク国内で勢力を確立しているシーア派武装組織であれば、能力・装備的に今回のような攻撃はできるかもしれません。緊張関係が続く限り、自分たちの存在意義(raison d’etre)が維持できるという理由から、ハーマネイ師やロウハニ大統領の意向とは関係なく、実行したとも考えることができます。

『サウジアラビアへの宣戦布告』という形をとることで今回の攻撃が実行されたのであれば、イランとサウジアラビアの直接戦争の可能性が高まるかもしれません。これは、イラン国内の友人たちの考えも反映していますが、このシナリオの可能性については、望ましくないとしつつ、否定はできないとのことでした。

ただし、もし戦争が勃発してしまうと、確実にアメリカは巻き込まれ、そしてイラン核合意を保持したい欧州各国も干渉を余儀なくされるでしょう。そして、サウジアラビアとイラン、両国と良好な関係を保つ稀有な国、日本も外交上大きなジレンマに直面することになってしまいます。

実行犯の特定については、事実関係の確認に加えて、政治的・外交的な意向が働きますので、実際にどうなるのかはわかりませんが、今回の案件で得をした可能性があるactorsがいくつか考えられます。

例えば、ロシアについては、確実に中東地域におけるプレゼンスの拡大という戦略に鑑みると、大きなプラスとなったと考えられます。サウジアラビアの原油施設への“本格的な次世代型攻撃”により、アメリカ製システムの脆弱性が明らかになったことで、自国製の武器を売り込む窓口を開いたとも読むことができます。

ビンサルマン皇太子はトランプ大統領と近いとされますが、プーチン大統領とも近く、そして中国とも面白い距離を保っている策士です。そして、仲がいいとされている(でも実はあまり好きではないらしい)クシュナー上級顧問と少し距離を置くチャンスを、ロシアがサウジアラビアの中枢に入り込んでくることで、提供するかもしれません。

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