なぜトルコは、シリアのクルドを攻めたのか?
アメリカは、「クルド人民防衛隊」(YPG)を、「駒」にしてISと戦わせました(既述のように、ISは、「反アサド」であるため、アメリカと利害が一致する部分もある。同国の行動には矛盾がありますが、事実、アメリカはYPGを支援して、ISと戦わせたのです)。そのため、アメリカは、YPGに資金や武器を提供した。
アメリカを中心とした連合国がシリアで過激派勢力「イスラム国」(IS)を破ることができたのは、クルド人勢力の協力によるところが大きい。YPGは、トルコ南部と国境を接するシリアで活動。シリア民主軍(SDF)の大部分を占めており、SDFはアメリカ軍の支援を受けてイスラム過激派組織IS掃討に貢献した。
(BBC NEWS Japan 2019年10月10日)
それで、YPGは強力になり、トルコの脅威になってきた。とはいえ、シリアのクルド支配地域には、米軍が駐留していて、さすがにトルコも手出しできない。ところが、2018年12月、トランプは「シリアから米軍を撤退させる」意向を示しました。トルコのエルドアン大統領は、きっと「ニヤリ」としたことでしょう。
10月6日、トランプは、エルドアンとの電話会談で、「米軍撤退」と「トルコのクルド支配地域攻撃には関与しない」と話したとされています。
ドナルド・トランプ大統領は6日、トルコによる軍事作戦に関与しない方針だと発表。すると、トルコがクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」への攻撃を開始する道を切り開くことになりかねないなどと、身内の与党・共和党内からも批判が殺到していた。
(同上)
10月7日、いよいよ米軍が撤退した。そして、10月9日、トルコはシリアのクルド人地域を攻撃しはじめたのです。エルドアンは、攻撃の目的について、
トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領は、軍事作戦の目的は、国境地域に「テロの回廊が構築されることを防ぐ」ためだとしている。トルコ軍は国境地域に「安全地帯」を確保したい考え。この安全地帯からYPGの戦闘員を完全に排除し、シリア内戦などでトルコ領内に避難してきたシリア難民360万人のうち、最大200万人をこの安全地帯に移住させたいとしている。
(同上)
これからどうなる?
問題は、アメリカがどう動くかですね。トランプは、トルコ経済を壊滅させると脅しています。
トランプ氏は声明で、トルコが「行き過ぎた」行動をとるようなことがあれば、トルコ経済を「壊滅させる」と警告。アメリカは「攻撃を支持」していないし、軍事行動は「悪い考え」だと述べた。
ところが、あんまり本気ではない感じです。
その後、トランプ氏は記者会見で、トルコとクルド人は「何世紀にもわたって争い続けている」、クルド人部隊は「第2次世界大戦でわれわれに協力しなかったし、ノルマンディー上陸作戦にも協力しなかった」と述べた。
(同上)
この発言から、彼の本音(クルドはどうでもいい)が見えます。アメリカは、トルコに制裁するかもしれません。しかし、それで「トルコ経済が壊滅する」ほどではないでしょう。
アメリカ、最近「中東がらみ」でやる気のなさが見え見えです。たとえば、同盟国サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、産油量が半分になってしまった。イエメンのフーシ派が犯行声明を出しましたが、アメリカは「イランの仕業だ!」と決めつけました。これ、どう考えても、「集団的自衛権行使マター」でしょう?ところが、この話、いつの間にか忘れ去られようとしています。
なぜトランプは、中東への興味を失っているのでしょうか?RPEでは6年前から書いています。シェール革命で、石油、ガスを自給できるようになったアメリカは、中東への関心を失った。そういうことです。哀れなのは、アメリカに見捨てられたクルドですね。
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