どこにひっかかったのかを調べたいと、筆者はさんざんネットを検索しまくったが、削除されたせいか、見つからない。いまのところ、野党合同ヒアリングの後、報道陣の質問に答えた鈴木氏の以下の発言から推測するしかなさそうだ。
「事実は全く書かれてませんから。4月の放送があったから郵政は営業目標を変えたとNHKは言っているが、ああいうウソを言ってはいけません。自分たちが取材をしたから変えたんだと言ってますよね。我々は当然もう準備していますから。2月か3月かもう準備しているわけで。今年の目標はこれだと言っているわけですから。まるで自分たちの手柄みたいに言っているやつはとんでもないなと」
どうやら、過酷な販売ノルマ(目標)を日本郵政が自律的に改善しょうとしていたのに、クロ現のお手柄にされたと憤っているようなのである。
ノルマ(目標)について日本郵政は昨年4月24日付でNHKの質問に以下のように
回答している。
今年度の会社全体の営業目標は前年度と比べて約10%の引き下げを行いました。したがいまして、各郵便局の営業目標や各社員に期待される目安額も平均的には下がっています。
これを読むと、鈴木氏が言う目標の変更とは10%ほどノルマの数字を減らしたことだと思われる。
かりに鈴木氏の言う通り、NHKが放送効果とノルマ変更の関係で「ウソ」をついたとしても、国民にとってその「ウソ」ににどれほどの重大さがあるだろうか。鈴木氏にしてみれば、とんでもない違いかもしれないが、我々には些細なことである。
小川議員は「まったく認識が甘い」と吐き捨てるように言い、こう続けた。
「あなたの上司である日本郵政の長門社長はNHKの報道は今となっては全くその通りと言っている。一連の抗議を社内協議を経ずにしたことを深く反省していると言っている。抗議は誤りだったと謝罪してください」
「社内協議を経ずに」と長門社長が言った意味は、ほとんど鈴木氏の独断だったということではないのだろうか。
いっこうに取り合わない鈴木氏に対し、小川議員ははさらにまくしたてた。「自信のある抗議ならなぜ公明正大にやらないんだ」。
小川議員は日本郵政がNHK会長やNHK経営委員会に送った文書を公表しないことをもって「公明正大ではない」と言っているのだが、鈴木氏は相変わらず話をすり替える。「私どもの社長3名の連名でNHK会長に対してレターを送った。隠れていない。堂々と送っております」。安倍官邸流のいわゆる“ごはん論法”だ。
隠す気がないのなら白日の下にさらせばいいのだが、野党の文書提出要求に応じようとしない。NHKもまた、日本郵政の了解が得られていないという理由で同じ姿勢をとる。
いつのころからか、郵便局に転居届を出すと、NHKへの届け出用紙もくっついてくるようになった。NHKに対して日本郵政は協力してやっているという思いがあるだろう。もちろん、われわれ一般市民にとっては、余計なお世話をするなといったところだ。
番組やツイッターへの怒りがおさまらない鈴木氏は、NHK会長に直訴した。その後、制作現場のチーフプロデューサーが「会長は番組に関与しない」と説明したのを逆手に取り、「職員教育とガバナンスがなっていない」「放送法違反だ」と、こんどはNHK会長らの経営を監視する経営委員会に抗議文書を送りつけた。
だが、これは石原経営委員長と打ち合わせの上だろうと、想像された。そこで、小川議員は石原氏に問いただした。
「会長への厳重注意なんて、ただならぬ事態じゃないですか。去年の10月9日、経営委員会に書面が届いたときにはじめて(日本郵政の抗議内容を)知ったんですか」。
これに対し、石原氏は驚くべき淡白さで打ち明け話をした。
「実は昨年9月25日に郵政の鈴木様が私どもの森下代行の東京の事務所にいらっしゃいました。申し入れということでお見えになり、ガバナンスの問題で非常に不満を言っておられたと聞いております」
森下代行とは、経営委員長職務代行者、森下俊三氏のことだ。阪神高速道路の会長だが、有楽町に東京事務所があり、そこに鈴木氏が訪ねてきたのだという。それを受けて当然、森下氏は石原氏に相談したことだろう。想像通り、事前の話し合いのすえ、日本郵政側からNHK経営委員会に文書が送られていたのだ。まさに出来レースである。