安倍首相とマルチ商法「ジャパンライフ」を結んだ政治家の実名

 

政治的背景とは何を指すのか。消費者被害への対処に影響を及ぼすほどのものとは。

この方針転換がなければ、被害の拡大は防げたかもしれない。14年秋から形ばかりの行政指導がはじまったが、そのころにはかなり多数の顧客が配当金を受け取ることのできない状況だったと思われる。

それから数か月後に届いた安倍首相からの招待状なのである。山口元会長にしてみれば、これを利用しない手はない。招待状、受付票、安倍首相の顔写真に、「安倍晋三内閣総理大臣から山口会長に桜を見る会のご招待状が届きましたとコメントをつけたチラシとスライドを作成した。

山口会長はこの後、ひんぱんにパーティーを開き、スライドを見せながら、誇らしげに総理や有名政治家たちとの関係の深さを強調して販売攻勢をかけたという。

野党追及チームのヒアリングで、携帯電話を通じて証言した被害者は、安倍首相の招待状の効能”を口々に語った。

「桜を見る会の招待状が来るほどの組織なんだと言われ、何の心配もなく、お金を足してゆき4,200万円すべてなくなり、途方に暮れている」(東北地方の主婦)

「招待状が最高の判断材料になった。安倍さんや麻生さん、下村さんら、つねに政治家と情報のやりとりをしてると言って信用させてきた」(東北地方の男性)

それにしても、なぜ安倍事務所は山口元会長を推薦者リストに入れたのであろうか。

その一つの手掛かりは、山口元会長と、安倍首相の側近として知られる下村博文元文部科学大臣の関係だ。下村氏が代表を務める政党支部は2014年12月25日付でジャパンライフから10万円の献金をもらっていることが政治資金収支報告書に記載されている。

先述した通り、消費者庁が初めてジャパンライフに行政指導したのは14年10月~11月だから、ちょうどそのころの政治献金だ。

山口氏はマルチ商法の草分け的存在で、1983年、「健康産業政治連盟」という政治団体を旗揚げし、多くの国会議員に献金をばらまいて政界に顔をきかせた。国会の質疑で、中曽根康弘、山口淑子、村上正邦、二階堂進、山口敏夫といった有力政治家の名前が献金先としてあがっていた。

そうした政界工作は第二次安倍政権に至るまでずっと続いていて、下村氏だけでなく安倍首相に近い政治家とは、何らかの方法で関係を取り結ぼうとしていた可能性がある。大門議員によると、ジャパンライフ社の「お中元リスト」に、安倍首相、麻生太郎財務相、菅義偉官房長官らの名前が並んでいたらしいが、お中元、お歳暮ていどで済ませていたかどうか疑わしい。

「政治的背景による余波を懸念する」と記された参考資料でもわかるように、政権中枢とジャパンライフの関係に官僚たちが気を遣っていたのは確かである。

関連して不思議なことが一つある。2014年4月から15年2月まで消費者庁取引対策課の課長補佐としてジャパンライフを担当していた水庫孝夫氏が、その後、同社に天下りしたという事実である。

国民民主党の大西健介衆院議員は昨年1月30日の衆院予算委員会でこう指摘した。

「2014年の8月にこの課長補佐はジャパンライフに接触をして、定年後の再就職をお願いしている。同年9月、10月に行政指導をやって、まさにそのときに、担当しながら自分の定年後の職をお願いしている。こんなことで公正な取締りができるはずがない。初動で手心を加えた疑いがあるんじゃないか」

消費者庁は内閣府の外局である。内閣府は内閣官房を助ける行政機関であり、その職員が、狭量で鳴らす総理や官房長官の不興を買わないよう細心の注意を払うのは、ある意味仕方がない。つまり、消費者庁は政権トップの意向に逆らえない基本構造を持っている。

もし、正常に取り締まり機能が働いていれば、ジャパンライフに対して文書による行政指導だけではすまされず、行政処分がなされていただろう。であれば、たとえ安倍事務所の推薦があったとしても、山口元会長への招待状発送は食い止められたかもしれない。

ジャパンライフの被害者は約7,000人、被害額は1,800億円にのぼるといわれている。自転車操業を続けるなかでも、山口元会長はせっせと自分の懐にカネを貯め続けていただろう。

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