心身を鍛える
厚生省が発足した1938年に、日本厚生協会が結成され、それまでリクリエーションと呼んでいたものを「厚生運動」と呼び変えた。この運動の目的は人的資源としての国民の体力・精神力を強化させることであった。この頃「厚生運動」により、国民を国家有意な人材に教育しようと意図した組織は二つあり、一つは「日本厚生協会」もう一つは「日本体育保健協会」である。
日本厚生協会は、体育を通しての心身の鍛錬を第一の目標に掲げてはいたが、それ以外にも音楽会や演芸会の開催といった健全娯楽の奨励、職場や住環境の改善整備といった目標も掲げ、国民の厚生一般に資するための組織であった。この組織は戦後「日本リクリエーション協会」と改められ、現在に至っている。主要な目的はリクリエーション活動の推進であり、傘下には日本ウオーキング協会、日本ゲートボール協会、日本ビリヤード協会、日本フォークダンス連盟、日本釣振興会といった、健全娯楽としてのリクリエーションの団体が連なっており、身心の鍛錬ということを離れて、楽しむための余暇活動という側面が強くなっており、前身である日本厚生協会の理念からはずいぶん離れた組織になっている。
一方、日本体育保健協会は、静岡県、鹿児島県、福岡県の知事(この頃の知事は官選であった)を歴任した後、警保局長として、共産党の弾圧に辣腕を振るった松本学(まつもとまなぶ)が創った組織である。建国体操なるものを考案して、体操という形式を通して、八紘一宇の大理想を具現発揚せんとする一大国民運動を起こそうとの松本の思想は、体操やスポーツがいかに容易く全体主義に結びつくかを如実に示している。
建国体操は、ただ体操のみを行うものではなく、建国神話に因んだ旗を持っての行進、建国体操前奏歌、建国体操讃歌の合唱を含み、いわば、八紘一宇の精神をたたき込む洗脳運動だったのである。一糸乱れぬ行進や体操や、声をそろえての合唱は、脳内麻薬を分泌させ、参加者は精神が高揚して、病みつきになるのである。独裁者がマスゲームや合唱や好むのは故ないことではないのだ。(続きはメルマガをご登録の上、お楽しみ下さい)
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