軍事アナリストが訴え続けた「緊急通電」。実現へ残る課題は?

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2019年9月の台風15号の際、千葉県内で長期間解消されなかった大規模な停電を受け、経済産業省は今後の対策を報告書にまとめました。その中で、停電解消を最優先に考え「仮復旧」の必要性が盛り込まれたことを喜んだのは、かねて「緊急通電」こそ第一に取るべき対策と訴えてきた危機管理の専門家、軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、必要性が認識されながらも「絵に描いた餅」で終わらないために、しっかり詰めるべき課題があると指摘します。

緊急通電が可能になる

ちょっぴり嬉しいニュースがありましたので、ご報告したいと思います。

「経済産業省の有識者作業部会は23日、9月の台風15号で千葉県を中心に発生した大規模停電についての検証結果と今後の対策について報告書をまとめた。停電解消を最優先する『仮復旧』の早期実施や鉄塔の強度見直しなどが柱だ。今後、必要な法整備などを急ぐ。   仮復旧とは、被害を受けた電力設備の完全復旧よりも、電柱などの応急処置で停電を早期に解消すること。電力会社は、仮復旧とその後の設備の『本復旧』で二重の費用負担が生じるため、仮復旧に及び腰となる傾向がある。そのため、電力事業者同士で費用を工面し合う相互扶助制度を導入するよう提言した。(後略)」(2019年12月24日付毎日新聞)

このメルマガでも述べてきたことですが、台風被害の復旧というと、全国の電力会社を総動員して倒れた電信柱を立て直す光景が展開されるのが、普通でした。

たしかに、これも復旧ではあります。しかし、元通りに電柱を立て直すには長い時間がかかります。電力は、ライフラインの言葉の通り、社会生活の生命線です。電力が途絶えると人間の命に関わります。大きな病院でも、自家発電装置が被害を受けて動かなくなることもあります。それだけでも、生命維持装置を使っている人、人工透析を必要とする人などは、命を失う危険に直面します。

それを考えると、電柱を立て直すより先に、地面に落ちた電線を使ってでも通電させようと考えるのが、健全な考え方だと思います。

私が仕事をしている静岡県では、中部電力の皆さんの協力を得て、意見交換の場を設け、知恵を借りました。その結果、緊急通電については、局所的にではあったけれども、立木などに電線を張ることで通電させた前例があることがわかりました。見てくれは悪いけれど、これでライフラインの使命を果たせることになります。

私はこの話を含めて、復旧は元通りに電柱を立て直すこと(本復旧)と緊急通電すること(仮復旧)の2本立てで同時進行させる必要があることを、電力会社の機関紙ともいうべき電気新聞のコラムに書かせてもらいました。

嬉しいことに、経産省の有識者作業部会のメンバーにも同憂の士がいたようで、報告書には仮復旧の必要性が盛り込まれました。あとの詰めは、費用をどうするかだけでなく、遅くとも24時間以内に通電することなどが明確にされることです。この点を詰めておかないと、絵に描いた餅になってしまいます。

2020年の台風シーズン、不幸にして大規模停電が発生した場合にも、緊急通電によるライフラインが確保されることを期待しましょう。これが真の意味での国土強靱化であり、安心・安全な社会なのです。(小川和久)

image by: wothan / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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