戦略コンサルも驚く、『獺祭』の旭酒造が達成した戦略的到達点

 

卓越性の追求

どのように“戦略的到達点”を定めて、どのように到達するのか。もちろん資金の潤沢な企業で、有能な人材がいるならば“鬼に金棒”なのですが、そうでなくとも“変身”は可能です。そこで、灘や京都の伏見といった酒処でない「獺祭」で有名な岩国市にある「旭酒造」の行ったことを追ってそれを見て行きます。

簡単に要点をお話しすると、以下のことに集約されます。“戦略的到達点”を、結果論になるのですが「世界中のすべての愛飲者が味わえる」最高級の「大吟醸酒」をつくりあげるとしたことです。

さて、最高級の「大吟醸酒」となると、通常思い描くのは経験豊かな杜氏と称される酒造りの名人の存在です。酒造りをしているかどうかさえ知られていない山口県の一地方にある岩国で、そんな名人など望むべきもありません。“戦略的到達点”を達成するために、そこにあったのは“意欲”です。

最初はお金も技術もないなかで「誰にも負けないモノを」ということで、思い至ったのが日本一の米磨き精米歩合「二割三分磨き」でした。あとは試行錯誤して、とにかく自分たちでやり通すだけでした。それも思い通りのものが完成してもさらに販売の問題があり、東京さらにニューヨークといった新市場への開拓をやり通すだけでした。

ここで補足して、なぜ東京さらにニューヨークかということですが、東京への販売は地元では相手にされないからで、またニューヨークで売り込みに成功すれば世界市場が可能になりそうだからです。東京では百貨店に販売をかけたのですが「山口の酒造メーカーです」と言ったところ「山形ではないのですか」と言われる始末でした。

それでも、一店一店と社長自らが巡り歩き説明し、試飲してもらい得意先を増やして行きました。この方式はニューヨークでも同じように行い続けたのでした。得意先の拡大の重要な要素は、徹底的なデータ管理でつくった「二割三分磨き」の大吟醸の初心者でも飲みやすい風味にありました。

「禍福は糾える縄の如し」と言う諺があります。関わりあった杜氏との関係も、最高品質を目指としていたのでうまくいかず、自身で酒造りを行わなければならなかったのです。経験や勘を働かせることに頼れないので、何度も失敗を繰り返し徹底的に数値化しデータ化し、思いの“風味”にたどり着けました。

この「データにより管理」が“幸いに転ずる切っ掛け”を与えます。製造管理の変革が、その後の空調と温度管理のために設備を導入となり、安定した品質で一年を通して酒造り可能にしたのです。その結果、生産能力が2倍以上になるという効果も生まれ、これで他に追随されない万人好みの大吟醸を量産できるようになったのです。

このおとぎ話のような成功事例をあげたのは、高い目標を設定してやり通すなら、固定観念に邪魔されず“革新的なノウハウ”を得ることもできるということ言いたかったからで、「自らの成長のために最も優先すべきは“卓越性の追求”である。そこから充実と自信が生れる。」はドラッカーの言です。

さらにドラッカーは「成果をあげることは習得できる。」と言い、「自らの強みを知り、得意とする仕事の仕方を知り、自らにとって価値あるものを知ればよい。これに加えて、成果をあげる原則を知ればよい。何に貢献すべきかを明らかにし、何に集中すべきかを定め、目標を上げればよい」。まずはそのように“思い”ましょう。

獺祭の旭酒造の“卓越性の追求”は、さらに進化し続けます。「富士通研究所」が開発した日本酒造りを支援する“AI予測モデル”を用いての共同実証実験を実施しています。ここでの旭酒造の“強み”は、データの蓄積とそして管理技術で、それに“AI技術”が加わるとさらなる品質改善が望めそうなのです。

少し付記しますと、現在のところディープ・ラーニングでは、データがなければ“AI予測モデル”など活用しようがありません。“強みのあるスキルのある企業”においては“AI”の活用は、確実に新たな成長のための能力を付加することになるでしょう。まず、企業の“戦略的目標”は“強みのあるスキル”づくりです。

ここで少し発想を拡げていただきたいのですが、この“AI予測モデル”のシステムが完成したならば、旭酒造にどのような展望が開かれていくのかということです。これについては一概に解答を出すことはできないと思いますが、要は今後の“戦略的到達点”をどのように見定めるかかかっています。

image by: Shutterstock.com

浅井良一この著者の記事一覧

戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 戦略経営の「よもやま話」 』

【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

print
いま読まれてます

  • 戦略コンサルも驚く、『獺祭』の旭酒造が達成した戦略的到達点
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け