かつて官僚と族議員に支配されてきたこの国の統治機構は、7年余りに及ぶ安倍長期政権の間に、政治主導の名のもと、いびつな首相官邸独裁に変貌を遂げた。
仰々しいスローガンを乱発する安倍首相の大好きな言葉の一つが「国家戦略」である。縦割り発想、省益優先の省庁に横串を通し国家戦略を実行するというふれこみで官邸に設けられている「〇〇戦略室」「〇〇推進室」「〇〇本部」はどこまで役に立っているのだろうか。
首相、官房長官に直結する「健康・医療戦略室」の昨今のふるまいから見えるのは、山中教授が安倍首相ら政権首脳に実利的成果を急がされた挙句、ハシゴを外されかけている構図だ。
アベノミクスにかかわりなく、基礎研究に十分な投資を政府がしてくれていればいまのiPS研をとりまく風景はずいぶん、違ったものになっていたのではないだろうか。
AERA19年12月16日号によると、山中教授は「iPS細胞を使った臨床研究では、日本が世界をリードしてきた」としながらも、「アメリカの怖さ」を切実に感じているという。
米バイオベンチャー企業ブルーロック・セラピューティクスはパーキンソン病患者に移植する臨床試験、iPSから作った心筋細胞による心不全治療、重い腸疾患治療の研究開発などを豊富な資金で進めるらしい。
山中教授は「私たちがやってることと完全に競合する。超大国アメリカがiPSにどんどん乗りだし、本気になってきた」と危機感を強めている。
安倍政権は日本のiPS研究開発が壁にぶち当たっている今こそ、実利を急がず、強力な支援体制を構築すべきではないか。やらしてみたけど、ゼニにならぬからさっさとやめるというのでは、いつまで経っても米国の後塵を拝するしかない。
image by: OIST from Onna Village, Japan, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons