上氏の念頭にあるメガファーマの一つは、スイスの世界的な製薬・ヘルスケア企業「ロシュ」であろう。
「ロシュ」のスタッフは、新型コロナウイルスが発見されるやすぐに現地に入り、さっそく検査ツールの開発に成功、やがて商用バージョンが民間検査会社にも投入された。
それを報じたのが1月31日付ブルームバーグの記事だ。
スイスの製薬会社ロシュ・ホールディングは、中国で発生した新型コロナウイルスに対応する初の商業用検査ツールを投入する。(中略)同社では、数週間前に中国・武漢市を発生源とする新型コロナウイルスの存在が浮上した時に分子診断医から成る緊急対応チームが始動。スタッフが十分に配置された施設で数時間以内に診断が可能な検査ツールを開発した。…新型コロナウイルスの感染拡大に備える他の国々からも注文を受けているという。
上昌広氏は、日本のメディアで、こうした事実が報道されないのをいぶかる。
「海外メディアが大きく報じたが、日本メディアはほとんど扱わなかった。緊急事態に際し、記者クラブ、役人、そのまわりにいる学者はどこを向いているのでしょう」(同氏のツイッター動画より)
厚労大臣らの記者会見や、担当官僚のレクをうのみにして記事を書く記者クラブメディアの報道だけでは、われわれ国民は、世界から見て日本政府の対策がいかにズレているかを具体的に知ることはできない。
中国への渡航歴は?中国から来た人との接触は?など、いわゆる“湖北省しばり”で、一般市民を検査から切り離し、政府はこの間、ミスリードを続けてきたが、自治体や医療機関の判断により“湖北省しばり”を突き破って検査を行う動きが広がるとともに、感染が急速に拡大しつつある実態が見えてきた。
上氏は東洋経済オンラインの記事で、こう書いている。
新型コロナウイルスに限らず、ウイルスの遺伝子診断はありふれた検査だ。クリニックでもオーダーできる。看護師が検体を採取し、検査を外注する。SRLやBMLなどの臨床検査会社の営業担当社員がクリニックまで検体を取りに来て、会社の検査センターで一括して検査する。そして翌日には結果が届く。新型コロナウイルスに対する検査はすでに確立している。…この検査ツールは、感染研などが実施している研究レベルでなく、臨床レベルの厳しい規制、品質管理をクリアしている。
政府がその気になり、予算をつければ、民間の検査会社を活用することにより、近所のクリニックでも、検査ができるのだ。
検査の結果、陽性であっても、無症状や軽症なら、自宅にしばらくの期間こもっていればいい。
その分、感染が一定以上に拡大するのを防げるし、限られた数しかない入院ベッドを、重症化してしまった人のために確保することもできる。
しかも新型コロナウイルスか普通の肺炎かがわからずに、やみくもに抗生剤を投与されるなどの無益な医療を受けずに済むだろう。
これまでの政府の「失敗」には、狭い視野、情報不足、日本の医療への過信などがあったように思える。もちろん、中国との外交関係、経済界への配慮や、さまざまな政治的思惑もあったに違いない。
政府は一刻も早く大量検査体制を整え、各医療機関には院内感染を防ぐ十分な対策を整備するよう指導すべきである。
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