中国「アビガンがコロナに有効」論文の取り下げは政治的意図か?

 

それにつけても、軽症のうちに投与すれば新型コロナにも効能が期待されるといわれる新型インフルエンザ薬「アビガン」(一般名:ファビピラビル)が、今後急増が予想される患者の重症化を抑え込む切り札となりうるのかどうか、たいへん気になるところだ。効いてくれ、と祈るような気分と言い換えてもいい。

そんなさなか、ちょっと気になるニュースが飛び込んできた。「アビガン」の新型コロナに対する有効性を確認したという中国の論文が取り下げられたというのだ。

アビガンは富士フイルム富山化学が開発した薬。取り下げられたのは、中国の科学誌に掲載された中国深センの第三人民病院、南部科学技術大学第二付属病院などのチームの論文。

厳密にいうなら、富士フイルム富山化学とライセンス契約を結んだ中国浙江海正薬業の製造によるジェネリック薬品を使用した臨床試験で、治療効果が得られたという内容である。

これがなぜ取り下げられたのかという理由は定かでない。「この記事は、著者および編集者の要求により取り下げられました」とあるだけだ。世界の学術雑誌などにアクセスできるウエブサイト「サイエンスダイレクト」で、それは確認できる。

中国浙江海正薬業からこの薬の提供を受けて武漢大学もまた臨床試験を実施しているが、こちらは研究論文が医学雑誌に掲載されているかどうかなど、詳細はわかっていない。

つまり明確に論文が発表されたことが確認されているのは深センの第三人民病院、南部科学技術大学のグループによる臨床試験結果であり、これにより有効性が確認されたことをもって、厚労省は2月22日、「アビガン」の投与を一部医療機関で始め、富士フイルム富山化学は承認を得るための治験を進めるとともに、政府の要請を受けて増産の体制を整えているのだ。

また、ドイツなど30か国から外交ルートでアビガンの提供要請があり、菅義偉官房長官は「日本政府から所要の量を無償で供与すべく調整を行っている」と表明している。アビガンを提供して投薬データを共有し、治療効果の確認を急ぐ狙いもあるらしい。

それだけに、今になって、中国のチームが論文を取り下げたのは意外だし、背後に何があるのだろうと勘繰りたくなる。

中国・浙江大学の研究チームが治療薬の開発に成功したと中国国営テレビが伝えたというが、その詳細は報じられていない。中国独自の治療薬に効能が確認されたなら、そこに何らかの政治的意図が働かないとは限らない。

中国の論文撤回については、理由が不明なだけに気味が悪いが、少なくとも効果が明確に否定されたわけではないと日本政府はみているようだ。

「アビガン」は奇形を生む副作用が懸念される薬剤のため、厚生労働大臣の要請がない限りは製造できないが、新型インフルの流行にそなえて200万人分の備蓄があるという。これを新型コロナに使えば、必要量の差により70万人分となる。

安倍首相は緊急事態宣言をした4月7日の記者会見で、「アビガンは、すでに120例を超える投与が行われ、症状改善に効果が出ているとの報告も受けています。観察研究の仕組みの下、希望する患者の皆さんへの使用をできる限り拡大していく考えです。そのために、アビガンの備蓄量を現在の3倍、200万人分まで拡大します」と述べている。

筆者が知る限りでは、アビガンは軽症の段階で使えば効くが、重症患者には向かない。だから、疑いがあれば早く検査し、妊婦を除く軽症患者に投与できるようにしてもらいたいものである。

この点について、安倍首相はこう語った。

「先生にアビガンを使ってもらいたいと言って、その病院において、倫理委員会において使えるということになっているとすれば、それは使っていただけるようにしていきます。治験のルートではありませんが、観察研究という形で、使っていただきたい」

病院の倫理委員会が認めていれば、患者が医師にアビガン使用を申し出ることで投与してもらえるという。実施に厳しいルールが定められている「治験」ではなく、「観察研究」という形で行うというのだ。名目はどうでもいい。国のトップが約束しているのだから、どこの病院でも使ってほしい。

なにしろ軽症だった人が急変して重篤化する恐ろしい感染症なのだ。英国のジョンソン首相がその典型であろう。

2月22日の記者会見で加藤厚労相はこう語っている。「(アビガンが)今後広く患者さんに利用されていく時期はいつごろか」という問いに対してだ。

「いま2つの医療機関と申し上げましたが、更に手を挙げられるところが、医療機関の中での審査手続きが終われば、可能になります。そこに対して私どもが、備蓄をしているこのアビガンを提供するというかたちで逐次広がっていく。患者を抱えられているところが必要とのことであれば、病院内の手続きをしっかり踏んだ上で、私どもの持っているアビガンを供与していきたいというふうに思います」

安倍首相や加藤厚労相の話を総合すると、どうやらアビガンを使うかどうかは、病院と患者しだいということのようだが、実際にはどうなのだろうか…。

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