リモートワークの加速度的な導入など、期せずして私たちの「働き方の根本」を見直すきっかけを作った新しいウイルスは、この先「新しいエリート層」をも生み出すようです。そんな、他の人たちの数倍から数十倍の生産効率の高さを持つゆえ、我がままな働き方が許される層の誕生を予想するのは、米国在住で世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』で今回、自身が「ニューエリート」と名付ける彼らが持つであろう特徴を紹介するとともに、その存在が「世界のフラット化をもたらす」との見解を記しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2020年5月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
コロナ後の世界:ニューエリート
新型コロナ対策のロックダウンにより、リモートワークが出来る職種と出来ない企業、オンラインツールが使いこなせる人と使えない人、などの二極化を招いているという話を前に書きましたが、これが新しい形のエリート層(ニューエリート)を生み出すことになると私は見ています。
彼らは、
- オンラインツールを使いこなし生産効率が桁違いに高い
- 非同期なコミュニケーション能力が高い
- コアタイムやZoomミーティングなど、時間に束縛されることを極端に嫌う
- 会社との関係は対等もしくはそれ以上
- 「やる価値がある」仕事だけを選んで働く
- オフィスには出勤せず、リゾート地などからリモートで働く
- 時間には束縛されず、仕事の成果のみで勝負する
- 自分なりのライフスタイルを持っている
などの特徴を持っています。
職種はソフトウェア・エンジニア、AIサイエンティスト、ゲーム・クリエーター、デザイナー、データ・アナリストなど、リモートで出来る仕事に限られたものになりますが、21世紀の第2四半期(2025~2050年)に起こる、社会全体のデジタル・トランスフォーメーションにおいて、大きな役割を果たします。
特に重要なのが、彼らの生産効率の高さです。その生産効率は、他の人たちと比べて、数倍から数十倍に至る上に、作る物の質も高いため、人材市場で圧倒的な力を持つことになり、その結果として、こんな「我がまなな働き方」が許されるようになるのです。
特にソフトウェア・エンジニアリングの世界は、生産性の高い人とそうで無い人の間に大きな差が出る世界ですが、そこにオンライン・ツールの使いこなし方や、コミュニケーション能力の差が加わると、その差は圧倒的なものになります。
ITゼネコンが(仕様書だけ書いて実装は下請けに丸投げして)100人月かけても作るものを、一人の優秀なエンジニアが3ヶ月で作ってしまう、今は、そんな時代なのです。
ちなみに、こんな働き方が可能になると、外国人に働いてもらうための就労ビザが不要になる点が、ソフトウェア業界にとっては、大きな意味があります。
米国のソフトウェア市場は、優秀な外国人をH-1Bビザで招き入れることにより成長して来ましたが、移民の受け入れば、常に「米国人から職を奪う」と批判の対象だったし、特にトランプ政権が誕生して以来は、政治的に微妙な問題でした。
しかし、リモートワークが機能するのであれば、移住などせずに国をまたいで雇用関係を持てば良いため、就労ビザが不要になります。つまり、中国人には中国で暮らしたまま、インド人にはインドで暮らしたまま、シリコンバレーの会社にリモートで働いてもらえば良いのです。
それが行き着く先は、世界のフラット化です。少なくとも、こんなニュー・エリート層に対しては、会社側は能力に応じて対価を支払うだけなので、その人が住む場所に応じて給料を変えるなどはナンセンスな時代が来るのです。
そして逆に、働く方も、ソフトウェア・エンジニアの職を得るためにシリコンバレーに移住する必要も無くなるので、自分のライフスタイルに合わせた場所に住むことが可能になるのです。
最近、シリコンバレーで成功した人がハワイに別荘を買うという話を良く聞きますが、それが別荘ではなく、活動の本拠地になる時代が来ようとしているのかも知れません。