現場は限界。たった40万で介護職員を呼び戻そうとする国の浅はか

shutterstock_129442199
 

深刻な人手不足が続く介護現場の現状を打破すべく、このほど厚労省は、介護職員の再就職準備金を40万円に引き上げる方針を固めました。しかしこの決定を、「その場しのぎの絆創膏治療」と切り捨てるのは、健康社会学者の河合薫さん。河井さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、瀕死の状態に陥っている介護現場の実態と離職が多い理由を紹介するとともに、高齢社会に向き合ってこなかった政府の姿勢を厳しく批判しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年6月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

老いる社会の闇

介護現場が“瀕死の状態”に追い込まれています。

慢性的な人手不足に加え、新型コロナの影響で施設の運営が厳しくなる一方で、高齢者の体力や知機能が低下し、業務負担が増大しているのです。

そこで即戦力となる経験者を呼び戻そうと、厚労省は最大40万円を復帰する経験者に貸し付ける方針を固めたそうです。

これまでは「最大20万円」だった介護福祉士修学資金等貸付制度の貸付額を倍増し、2年間介護の仕事を続ければ返済は免除されます。

介護福祉士として登録しながらも、介護職として働いていない「潜在介護福祉士」は全国に45万人(推定)。団塊の世代が全て75歳を超える2025年に必要となる介護職員の人数は245万人。不足する人数は34万人と試算されているので、45万人の人たちになんとか戻って欲しいというのが、国の本音なのでしょう。

これで少しでも戻ってきてくれれば、短期的にはいいかもしれません。

しかしながら、これだけではスズメの涙にしかならない。その場しのぎの“絆創膏治療”では、どうにもならないくらい介護の現場は疲弊しているのです。

「人」相手の介護現場は、常に予想外とイレギュラーの連続です。私たちが想像する以上に忙しく、拘束時間も長い。しかも、まとまった休みも取れません。365日24時間の仕事だし、賃金も安いので、いい意味で遊んで、見聞や視野を広げる機会も乏しく、人間関係も…施設の中だけに限られがちなのです。

40万円は確かに魅力的です。こういった取り組みは必要だとは思います。しかし、それだけでは足りないのです。「ここで働き続けたい!」と働く人たちが思える職場環境がなければ、離職率を下げることも、介護人材を増やすこともほぼ不可能です。

実際、離職した理由を調べると「職場の人間関係」「休暇が取れない」などをあげる人が多く、逆に「離職率の低い」施設では、例外なくスタッフに投資していました。

ある施設では、サバティカル休暇のような長期休暇が取れたり、ある施設では、スタッフの自己啓発の教育支援を行ったり、ある施設では、スタッフ同士、利用者、利用者の家族がつながる機会を積極的につくったり、カネと時間と手間をかけて、「働き続けたい職場作り」に精を出していました。

つまり、そういった職場を作るために、国が出来ることは何か?どんなサポートをすればいいのか?「介護する人」の社会的評価を高めるには、何が必要なのか?

そもそも「介護」において、超高齢社会の日本が大切にしたいことは何なのか?

そういった議論を、今こそするべきだと思うのです。

print
いま読まれてます

  • 現場は限界。たった40万で介護職員を呼び戻そうとする国の浅はか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け