だが、なにごとにつけ、過ぎたるは及ばざるがごとしである。実に不思議なパンフレットの写真が文春の記事に掲載されている。これを見ると、前田氏はいったい何者なのか、何を勘違いしているのか、という気分にさせられる。
「前田House in SXSW Austin」。これがタイトル。3月10日から19日までのSXSW期間のうち、「前田は3/8-3/12滞在」と書いてある。前田氏が何者かについては一切記述がない。つまり、前田といえばわかる人に配るのだろう。往復の航空機やSXSWのチケットなどは各自で用意し、140平方メートルの大型アパートメントに「15人で雑魚寝宿泊」、「女子部屋あり」となっている。
このパンフを作成したのが『金になる人脈』(幻冬社新書、2008年)の著者、柴田英寿氏で、パーティーの幹事役を引き受けていたらしい。「前田ハウス」の名付け親でもあるという。そこで、とりあえずキンドルのサンプル版をダウンロードしてみる。「はじめに」に書かれているのは概ね、こんなことである。
他の人が知らない情報が手元にあることが儲かるための条件です。人が知らない情報を得ることができるのが人脈です。人脈から得られるのは、大量の情報をどう見るか、どの情報だけ見ておけばいいか、ということです。その見方とは、業界についての話や、国についての話、金融についての話かもしれません。私自身の経験でも、儲かったのはすべて、人からもらった話でした。本書では…「金になる人脈」をつくる秘訣を明かしていきます。
さて、先ほど、サービスデザイン推進協議会から電通への丸投げ的再委託はルール違反と書いたが、「前田ハウス」のごときふるまいは、国家公務員倫理法にも抵触する疑いがないとはいえない。
同法に基づく倫理規定にはこういう条文がある。
職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならないこと。
「前田ハウス」に集う面々は、柴田氏の言う「金になる人脈」を求めてやってくるのに違いない。その中心にいる前田氏の口から飛び出しうる「人が知らない情報」は、まさしく「国民の一部に対してのみの有利な取り扱い」であろう。
「えこひいき」がまかり通っているのが、この国の現実だ。首相が手本を示しているのだから、なにより始末が悪い。
image by: 中小企業庁 , っ, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons