小池氏の気になる敵は、他の候補者ではなく、『女帝 小池百合子』という一冊の本の影響度だったかもしれない。この本が世に出たのをきっかけに、いくつかのメディアが学歴詐称問題を蒸し返した。
怪物・小池百合子が男性社会の政界でのし上がっていった秘密を綿密な取材で解き明かす興味深い本である。
著者の石井妙子氏は、小池氏がカイロ大学に通っていたころ、同じ部屋に同居していた早川(仮名)という女性から取材した事実をもとに、小池百合子氏の虚飾と実像を浮かび上がらせた。
小池氏は学生数10万人の国立カイロ大学を日本人女性として初めて、しかも首席で卒業した才媛、英語はもちろんアラビア語も堪能というふれこみで世に出た。
きっかけは1976年10月のこと。サダト大統領夫人が来日する半月ほど前に日本に戻った小池氏は、父が関係する日本アラブ協会の推薦で夫人のアテンド役をつとめた。「エジプト人でも卒業が難しいカイロ大学を卒業した初めての日本女性」と、マスコミに自分を売り込むと、新聞に取り上げられ、テレビ、ラジオにも次々と出演した。
同居していた早川さんは、カイロ大学の進級試験に落ちた小池氏が、「カイロ大学を卒業」と日本で既成事実化されていることなど知る由もない。約1か月を日本で過ごした小池氏がカイロに帰ってきたときの様子が同書で次のように描かれている。
アパートで迎えた早川さんは、わずかな期間で別人のように変わった小池を見て驚いた。…小池は嬉しそうにスーツケースから新聞を取り出すと早川さんに見せた。顔写真付きで小池が紹介されていた。早川さんは読み進めて思わず声をあげた。…「百合子さん、そういうことにしちゃったの?」小池は少しも悪びれずに答えた。「うん」…わだかまるものはあったが、小池はとにかく日本に帰りたいのだ。カイロ大学を出られなかった、とは口が裂けてもいえない。…小池はさらに続けた。「あのね、私、日本に帰ったら本を書くつもり。でも、そこに早川さんのことは書かない。ごめんね。だって、バレちゃうからね」
このエピソードに、小池氏の稀有な特質が凝縮されている。
女性らしさとしたたかさ、平気でウソをつく狡猾さと驚くべき度胸。事実を別の美しいストーリーに仕立てあげ、その主人公である自分を売り込む「人生マーケティング」の最初のステップだった。
その後、小池氏は、男社会のメディア、政界に飛び込んで、「ジジ殺し」と評されながら政財界の大物に近づき、引き立てられ、のしあがっていった。
再選を早々と決めた小池氏の当確第一声は、オンラインのライブ配信で流された。
「都民の皆様に東京大改革をご評価いただいた。コロナ対策については、集団での検査が進んでいる。今後は、東京版のCDCをつくって効率よく動かしていきたい」
支持者がいないこじんまりとした部屋からのライブ配信。「ふつうは万歳するところではありますが、コロナ禍で万歳する気にはなかなかなれません」。
一瞬緊張が走ったのは、テレビ東京の番組につながり、池上彰氏に『女帝 小池百合子』を読んだかと聞かれたときだ。小池氏は「読む暇がございません」「コロナで大変忙しくしております」と、涼しげな表情を浮かべたが、素っ気ない返答に不快感がにじんだ。
それにしても、小池都知事の新型コロナ対策は今のやり方でいいのだろうか。
新宿歌舞伎町における集団検査は、陽性者が出たホストクラブなどで実施しているにすぎない。都の担当部局は「これまでの枠組みと変わらない」と言っている。検査数は、あまりにも少なかった時に比べて増えているだけで、本格的拡充への仕組みはいまだにつくられていないのだ。