東京人は「飢え」に備えよ。コロナ下の日本、食料問題の行き着く先は

 

食料の「自給率」と「国産率」は違う

実は今年から、農水省が食料の「自給率」を発表する際にそれと併せて「国産率」を発表するようになった。

あれれ~? 食料をどれだけ国産することが出来ているかの比率が自給率ということなんじゃないの? 正常な日本語感覚ではその通りだが、農水官僚が用いる辞書ではそうではない。

そこで、新聞がこれを報道する場合、今まで通り「自給率38%」と見出しを立ててもいいし(現にほとんどの新聞はそうしている)「国産率69%」という丸っきり印象の違う見出しを掲げてもいい…という大混乱事態が出現するのである。

食料自給率は、牛・豚・鶏などが食べる穀物飼料などの75%が輸入であるため、それを用いた肉やその加工品、卵などは国内で生産されていても「自給品」とは見做されず、自給率の計算から排除される。

あるいは、卵は95%が国産であるけれども、鶏たちが食べている飼料が輸入がほとんどだということで自給率は10%と計算される。

これは、誰が考えたのか分からないが、ずいぶん奇妙な定義で、たとえばある人が、イタリアのパスタ、スペインのイベリコ豚、フランスのチーズ、ドイツのソーセージが大好きでそのような輸入品ばかりを食べていたとすると、そういう奴は日本人として認められない「非国民」であるから人口統計から除外するという類の笑い話である。

それでいて、安倍晋三首相肝煎の農林水産品輸出1兆円戦略では、その中の農産品で金額的に最大品目となっているのは牛肉であるけれども、その牛肉が輸入飼料を食べて育ったかどうかは問うていない。輸入飼料で育った牛は「日本の自給品」ではないけれども「日本の国産品」ではあるので、それを輸出すれば「日本の輸出品」であるとするチグハグがある。

おかしいんじゃないかという前々からの批判に答えて、今年から新たに発表されることになったのが、穀物飼料の輸入率を考慮に入れない「食料国産率」なのである。

野菜の自給率はたったの8%?

ところがそこでまた矛盾の連鎖が生じて、ならば「野菜はどうなんだ」という問題が浮上する。近頃は野菜の種子の9割が外国の圃場で生産され輸入されていることをカウントすれば、80%とされている野菜の自給率は何と8%になってしまう。

さらには、家畜の栄養となる飼料を除外するのであれば、穀物や野菜の栄養となる肥料はどうなのか。もっと言えば、日本の石油・天然ガスなどエネルギーの自給率は9.6 %で、ハウス栽培の暖房や農機の運転のための燃料はほとんど輸入に頼っているというのに、それがどうして自給率から差し引かれないのか。

とすると、そこで問題は一挙に二極化して、一方では、すべてがグローバル化しボーダレス化しているこのご時世に、いまさら食料自給率なり国産率を問題にすること自体が無意味だという説があり、他方では、いやだからこそますます自給化・国産化が大事で、飼料も種子も何もかも自前で確保すべきだという説も強まることになる。

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