東京人は「飢え」に備えよ。コロナ下の日本、食料問題の行き着く先は

 

「カロリーべース」という奇怪

次に、この自給率なり国産率を、何を以て測るかという、これはまた結構、原理的な問題がある。

上記の「食料国産率69%」というのは実は、「生産額ベース」の数字で、「カロリーベース」だと47%になる。従来からの食料自給率も今回から加わった食料国産率も、生産額ベースとカロリーベースの2つの計算の仕方をしている。両方を分かりやすく並べると次のようになる。

  食料自給率 食料国産率
カロリーベース 38% 47%
生産額ベース 66% 69%

 

私はそもそも、カロリーベースでの自給率計算に疑問を持ち、今から18年ほど前になるかと思うが、農水省が「自給率向上委員会」というものを作ってキャンペーンを展開した際に、当時の同省食糧安全保障課長の誘いでそれに参加し、その冒頭発言で「なぜ食料自給率をカロリーベースで測るのか」と問いかけた。しかし農水省側からはきちんとした説明はなかった。

推測するに、カロリー摂取量を至上とするのは、戦後直後の栄養失調が大問題だった時代の発想で、今ではむしろカロリーの過剰摂取による肥満や、またタンパク質やビタミン類など他の必須栄養素とのバランス失調が問われている。

それでもカロリーが大事だとする発想が抜けない根底には、「いざという時に最低限の体力を維持する必要がある」というこの「いざ」という考え方がある。

「いざ」とは何かと言えば、端的に言って先の大戦の記憶である。日本が世界を相手に戦争に打って出て、食料も石油燃料も何もかも輸入が途絶してしまうけれども、それでもなおかつ前線で軍人が戦い、背後の国民が働いて生産を維持して戦争を継続しなければならない。

そんな時に栄養バランスだ何だとは言っていられないだろう。今日明日、銃を撃ち、竹槍を突いて戦う体力が残っているかだけが問題で、だからカロリーなのだ。

この「いざ」という時は最後はカロリーという悲壮な覚悟が、トラウマのようにして戦後にまで持ち越してしまった残骸観念なのではないだろうか。

東京と大阪の自給率は1%

さて食料自給率・国産率の発表に際しては、1年遅れで前々年度の都道府県別の数字も発表される。カロリーベースの自給率で高い方から順に10位まで並べると、こうなる。

言うまでもないが、100 %超ということは自分の道県内で消費する以上に生産量があって、他県もしくは他国に輸出しているということである。しかし品目は様々なので、その道県が必要な食料を独立的に確保できているかどうかは別問題である。

  1. 北海道 194%
  2. 秋田  190%
  3. 山形  135%
  4. 青森  120%
  5. 新潟  107%
  6. 岩手  106%
  7. 佐賀   95%
  8. 鹿児島  79%
  9. 福島、富山 78%

同じく、金額ベースの国産率を高い順に並べると、

  1. 宮崎  318%
  2. 鹿児島 300%
  3. 青森  252%
  4. 北海道 225%
  5. 岩手  223%
  6. 山形  186%
  7. 高知  175%
  8. 熊本  166%
  9. 佐賀  159%
  10. 秋田  156%

金額ベースだと南九州勢が伸びてくるのは、畜産飼料の輸入比率がカウントされなくなったことが大きい。それにしても、北海道と東北地方は変わることなく上位で、これが「豊かさ」の21世紀的な標準を示していると、私は思う。「東京に憧れる」という100~150年の幻想は終わったのである。

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