PCR検査は多いほどいいのか?
PCR検査をどのくらいまで増やせばいいのかという問題は、どこでも議論になっている。多ければ多いほど陰性か陽性かがはっきりさせることができるだろうと思うのは素人考えで、その国ごとの感染状況や、とりわけ上述のような第1~第3のどの段階での戦いが焦点となっているかによって解は異なる。
その前にまず、コロナ禍関連のデータを毎日更新しているサイトである「worldometer」で、8月15日現在の「人口100万人当たり検査数」を東アジアの主要国について見てみよう。左端の「順位」は同指標による世界ランキングを表す。右端には参考までに「感染者総数」を示しておく。
● 原データ:COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC
順位 国名 検査数 感染者総数
14 シンガポール 275,089 55,580
70 中国 62,814 84,808
107 韓国 32,673 15,039
129 フィリピン 17,994 57,918
145 タイ 10,730 3,376
152 日本 8,760 52,217
175 台湾 3,545 481
シンガポールは、人口当たりの検査数では群を抜いて多いが、それで感染者数を抑えられているかというとそうでもなく、フィリピンや日本などとほぼ同じレベルの5万人台である。これは、数を増やせばいいというのではなく、どの段階でどれだけタイミングよく検査を広げたかということこそ問題であることを示唆している。
また中国は、世界最大の14億4,000万人の人口を擁しているというのにこれだけの人口当たり検査数を達成し、しかもこの程度の感染者数で抑えているのは立派というほかない。5月中下旬に武漢市民990万人全員に検査を行い300人が陽性だったと発表するというメリハリの効いたやり方が、人々に安心を与えている。
逆に、台湾は検査数が世界最低レベルと言えるほど少なく、それでいて感染者総数もまた極端に少なく、つまりは抑え込みに成功している。検査については実は台湾でも議論があって、4月末~5月上旬に国民党の韓国瑜=高雄市長が全国民に検査を実施すべきだと提唱し、それに対して民進党政権の陳其邁副首相らは「感染者数が少なく、なおかつこれまでのところ陽性率が0.7%と低い台湾の場合はそうする意味がない」と反論した。
台湾は、第1段階から第2段階の入り口あたりで歯止めをかけることができたのでそれでいいのだが、日本の場合は、第1段階も第2段階も突破されてあれよという間に第3段階まで達してしまったため、本来なら都市封鎖、補償付きの休業命令、内外移動の強度の制限などに踏み切らなければならないところ、上述のように「命より金」の邪念にとりつかれているので、そうはならない。この段階で防衛線を張るには、せめて検査を米ニューヨーク州のように「誰でも何度でも無料で」というふうにしなければならないが、それも厚労省=国立感染研究所の権限意識が壁となってままならないのが実情である。