首都・平壌は陥落寸前。相次ぐ台風で逼迫する北朝鮮の食糧事情

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8月末から9月にかけて3つの台風が相次いで朝鮮半島を襲いました。新型コロナウイルスの影響により逼迫する経済に追い打ちをかける台風被害で、更なる食糧難が危惧されます。メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんは、首都平壌ですら生活用水や食糧問題を抱える事例を紹介。台風の被害次第では、脱北者が大きく増えるとの見方を示しています。

相次ぐ台風直撃で北朝鮮で食糧難時代再来か

台風8号が過ぎてやれやれと思っていた北朝鮮国民に今度は台風9号が、さらには今までで最強クラスと言われる台風10号も間違いなく北朝鮮を直撃すると予想されている。

台風8号の被害は「水害対策が貧弱な北朝鮮」に当初予想されていた被害は及ぼさなかったが、『労働新聞』9月1日号のトップ記事は通常の1号記事(金正恩朝鮮労働党委員長)ではなく、核・ミサイル開発担当の李炳哲朝鮮労働党副委員長が、台風8号の被害を受けた南西部の黄海北道・長淵郡の農場を見てまわり「1粒の穀物も無駄なく取り入れるため」の討議をしたとの記事が掲載された。
9月1日付の労働新聞1面は下記をご参照。
労働新聞の異変(2) 「独裁」からの脱皮か?健康への不安か? – 北朝鮮ニュース | KWT

これは今までになかった紙面作成であり、なぜこのような紙面づくりになったか、様々な憶測を呼んでいるが、問題は相次ぐ台風による農作物への甚大な影響と、それにともなう「食糧難時代の再来」である。

金正恩朝鮮労働党委員長は7月2日の党政治局拡大会議で、新型コロナウイルスについて周辺国で再拡散が続いていると指摘し、「拙速な貿易措置の緩和は取り返しのつかない、致命的な危機を招く」として、非常防疫体制のさらなる強化を指示したが、この1月からの中国との国境を実質封鎖する厳しい防疫措置を続けている結果、経済がひっ迫している。

金正恩は6月の党政治局会議で、平壌市民の生活向上に取り組むように指示し、内閣は生活用水や野菜供給の改善策を打ち出した。つまり、水や食糧の供給さえ問題があるということを明らかにしたのである。

平壌は金正恩政権の権力基盤でもある。その平壌に集まる党や軍幹部、エリートが集まる平壌の市民へ優先されてきた食糧配給も春以降滞っていると伝えられており、市民の不満は権力基盤を揺るがしかねない状況にあり、金正恩の指示は差し迫った危機感の表れでもある。

近着の『統一日報』に「コラム 平壌市民を山奥に追放」という記事がある。「平壌市に住んでいた熱誠者の家族だが、その30世帯の家族の誰かが労働者としてロシアに派遣されたが、行方不明となったがために残された家族全員が黄海道の山奥の村に強制追放されたという情報もある。事前通告なしの追放であったという。最近、平壌住民の食糧配給が困難となり、その解決策として、口減らしのため、熱誠分子でさえ、平壌から追放しているということだ」。(※編集部補足、熱誠分子とは、思想・出身成分=身分が優れた人間)

北朝鮮では1990年代の大飢饉の際、“苦難の行軍”が叫ばれ、脱北した人も少なくなかったし、2016年の台風10号でも被災した地域の住民の多くが脱北したと言われている。

今回の台風9号、10号が北朝鮮におよぼす被害は甚大なものになると予測されている。北朝鮮の食糧難時代の到来を見越して、国連の食糧援助機関からすでに食糧支援の動きがあると言われており、日本も大量の放出米を抱えていることから、北朝鮮へ人道的な立場からの食糧支援を行うべきではないかとの声も聞こえるが、まずは台風10号の通過後の北朝鮮政府の被害状況の公表を待つしかない。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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