非正規を使い捨てる日本。最高裁「ボーナスは正社員特権」判決の非情

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この国は、労働人口の4割弱を占める非正規労働者をどこまで酷く扱うつもりなのでしょうか。先日最高裁が下した「賞与や退職金は正規社員の特権」とも受け止められるような判断を紹介しているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、この判決が「報われない社会」の拡大につながることは間違いないと強く批判。さらに有期雇用自体の禁止を強く訴えています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

正社員は“特権階級”なのか?

賞与や退職金は、正社員の“特権”なのか?その是非を問う注目の訴訟の判決が、10月13日に下されました。

賞与が争点となったのは、大阪医科大の元アルバイト職員の50代の女性の訴訟です。2審では「不合理な格差で違法」だと判断し、正規の職員のボーナスの60%にあたる金額を賠償するよう大学側に命じていました。しかし、昨日の最高裁で、「不合理な待遇格差」には当たらないと判断されたのです。

一方、退職金が争われたのは東京メトロ子会社の「メトロコマース」の元契約社員の女性2人を巡る訴訟です。2審では「退職金は長年の勤務に対する功労報酬の性格がある」とし、不支給は不合理だとしていました。ところが、最高裁は「正社員の間で役割などに差があった」と判断。契約社員として10年前後働いた点を考慮しても、退職金の不支給は不合理とまではいえない」という、なんともまどろっこしい判決を下しました。

安倍前首相が「同一労働同一賃金の実現に踏み込む」と、働き方改革の柱に掲げた4年前、多くの人たちがちょっとだけ期待しました。これで非正規の低賃金は解消されるのか、と。

非正規と正規雇用の賃金格差は、生涯賃金で比較するとその差がいかに大きいかがわかります。非正規社員男性の生涯賃金は(約6,200万円)、正社員の4分の1(正社員男性=約2億3,200万円。みずほ総合研究所の試算)。たったの4分の1しかないのです。

また、正社員の賃金カーブは50歳代前半をピークとする山型であるのに対し、非正規はフラットです。その結果、もっとも差が広がる50~54歳男性の平均年収は200万円近くもの差ができてしまいます(非正規234.1万円、正社員435.8万円「厚生労働省・賃金構造基本統計調査」)。

それだけに安倍前首相の口から「同一労働同一賃金」という言葉が出たことは、「希望」を抱かせるものだったわけです。

しかし、法案では「均等」ではなく「均衡」という文字が最後まで消えることがなかった。均等と均衡は、きしめんとうどんのようなもの。全く意味合いが違うのです。

「均等」とは一言でいえば「差別的取扱いの禁止」のこと。一方、「均衡」は文字通り「バランス」です。均衡という文字がある限り、「処遇の違いが合理的な程度及び範囲にとどまればいい」と判断されます、「年齢が上」「責任がある」「経験がある」「異動がある」「転勤がある」といった理由を付すれば、「違い」があっても問題ありません。

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