専門家頼みで自滅する日本の危機管理。コロナと福島原発の共通点とは?

 

当事者や関係者83人に聞き取りをしたと言っても、提言が戦略的な視点をもとにまとめられていないからです。ここで参考になるのは、イスラエル・ヘブライ大学のシャシュア教授が出した提言「医療崩壊を防ぎ、経済を殺さない方法」にある次のような視点です。

  • 新型コロナウイルスは未知の部分が多い。
  • 疫学的な解析だけでは困難に直面する。
  • 感染のピークはいつで、発症していない感染者数が何人なのか、把握できない。
  • ロックダウンや緊急事態宣言を解除し、経済活動の自粛を解いた結果を疫学的な計算では見通すことはできない。

だから、コンピュータ科学の知見によってモデルを描く必要があったというのです。

当事者や関係者に聞き取りをすると、ややもすると感染症の専門家の見方や見解に引きずられることになります。しかし、この人々には危機管理の見取り図を描く力が備わっていません。また、聞き取りをする側にも専門家の見解の当否を判断する能力が備わっているとは思われません。

福島第一原発の事故の時も、聞き取りを行った研究者らに質したところ、日米の政府の中枢から出てくる発言を適切に判断する能力を備えていないことが明らかになりました。今回もまた、同じ轍を踏んでいることは申し上げておきたいと思います。

だから、「『場当たり的』な判断の積み重ね」という言い方になってしまうのです。危機管理には臨機応変が求められ、「場当たり的」な判断と修正が続くのは当たり前ということが理解されていないと言わざるを得ません。独断も、場当たりも、唐突も、危機管理としては当然の帰結でもあるのです。

「特措法などを早急に見直し、罰則などの強制力を持った規定を設けることや、公衆衛生のために経済的犠牲を強いられる企業や個人には一定の経済的補償をすべき」という提言には全面的に賛成です。私も5月、経済広報センターの『経済広報』7月号に「コロナと企業の危機管理」という一文を書きました。

民間臨調の提言が説得力を備えるためには、感染症の専門家についても一長一短を指摘するところまで踏み込んで、危機管理の側面から早期収束のモデルを提示して欲しかったと思っています。次回に期待しましょう。(小川和久)

image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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