オバマの失敗を取り戻す。バイデン当選で高まる軍事衝突の緊張

 

そうそう簡単には変更できぬ中東情勢

二つ目は、【中東地域の情勢はどうなるのか】についてです。イシューとしては、【イランとの関係】と【イスラエル主導で進むアラブとの“和解”の動き】、そして【トルコとの関係】が挙げられます。

他にはシリア問題やイラクの戦後復興、そして地域としては少し中東からはズレますが、アフガニスタン政策もどうなるか注目です。

仮にバイデン政権になった場合、どうでしょうか。イランの核合意への復帰といった表面的なところでは、トランプ政権とは180度違った方針に展開します。その結果、対イランの緊張感は“表面上は”和らぐかもしれません。それで違いをアピールしたいところでしょうが、実際には、トランプ政権時の対中東戦略とさほど違いは出てこないと考えます。

まずイランを巡る問題ですが、オバマ政権の“成果”としてイラン核合意を挙げたいでしょうからそれへの復帰は躊躇わないでしょうが、トランプ政権下で作られた「イラン憎し」の感情と方向性はリバースできないものと考えます。

以前にもお話ししましたテヘラン米大使館人質事件以降、アメリカの歴代政権にとってイランは倒すべき相手であり、また同盟国・イスラエルの宿敵であることから、反イランの感情がアメリカ政治からはなくなることはないと言えます。

すでにトランプ政権下で、「イランへの攻撃もやむなし」という方向性は議会においても、世論においても出来上がっていますので、これを急にリバースさせることはできないでしょう。

またイラン国内では、アメリカは常に宿敵イスラエルの後ろ盾であり、憎むべき敵との位置付けですから、オバマ政権時に締結した核合意の存在をもってしても、アメリカへの敵意も消えておらず、そのことはアメリカの議会もよく承知していますから、強硬なイラン対策についてなかなか変化は期待できないものと考えます。

問題は【バイデン氏が、自ら副大統領を務めたオバマ政権の威光と、トランプ政権の4年で固定化された反イランの波の間でどのようにふるまうことが出来るか】というポイントでしょう。

トランプ政権が継続する場合、イランへの敵対は恐らく変わることはありません。娘婿の存在や自らやペンス副大統領のキリスト教福音派の信仰の所以もありますが、あからさまな対イスラエルへの肩入れは継続し、次々とアラブ諸国に働きかけて「反イラン包囲網の拡大」を図るものと考えます。

ところで皆さん、イスラエルとアラブ諸国(UAE、バーレーンなど)が次々と“和解”し経済関係のみならず、国交も樹立している“本当の”狙いは何だかご存じでしょうか?

表面的には【対イラン包囲網の拡大】と言われていますが、実際には【トルコ包囲網の拡大】です。

トランプ政権にとっては、NATOの同盟国としてこれまで贔屓にしてきましたが、エルドアン大統領のロシアへの傾倒にあるように、米露を天秤にかけたようなやり方に我慢がならないというのが実情のようです。

トランプ大統領のみならず、一般的にアメリカ政府は他国にplayed(弄ばれる)のを極限に嫌いますので、エルドアン大統領の態度には腸が煮えくり返っていると言えます。

イスラエルにとってトルコはイランと並ぶ地域のライバルという位置付けであり、イスラエルにテロ攻撃をかけてくるシリアやレバノン(ヒズボラ)を、イランと共に支援する存在との意識のようで(とはいえ、シリア北部の帰属については、シリアとトルコは対決姿勢)、自身の存在と安全にとっての脅威になってきています。

その点では、トルコと歴史的な対立を深めているUAEやバーレーン、オマーンといった国々と利害が一致しますし、すでに和解しているエジプトも同じです。イスラムの盟主を自負するサウジアラビア王国は、同胞パレスチナ人への配慮から、最後までイスラエルとの公式な和解には参加しないでしょうが、サウジアラビア王国も、皆さんご存じの通り、カショギ氏殺害事件(in Turkey)におけるビン・サルマン皇太子の直接的関与を匂わす決定的証拠を握っていると繰り返し攻めてくるエルドアン政権を決して良くは思っておらず、自らは参加できずとも、他のアラブ諸国がイスラエルと和解に走る動きを黙認しています。

【イラン包囲網】と名付けられ、実際には【トルコ包囲網】が広がる中、中東地域における勢力地図の書き換えに向けた動きは、仮にバイデン氏が大統領になり、民主党政権になっても、アメリカにはすでにリバースする力はありません。

シリア問題については、オバマ政権下でRed lineを設定したにもかかわらず、実際にはred lineを超えたアサド政権に対して何もできなかったという外交・安全保障上の大きな失敗があり、バイデン氏と民主党はその汚点を一刻も早く挽回したいと考えているらしく、シリアのアサド政権に対しては、トランプ政権以上に厳しく対峙することになりそうです。

トランプ政権によって書き換えられ、パンドラの箱が明けられた中東情勢は、そうそう簡単には変更できないものと考えます。

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