引継ぎがうまく行かない店
スポーツ店の中にも、引継ぎに苦労をしている経営者がいます。自分の体力が落ちてきたこともあって、若い息子に経営を任せることにしました。しばらくは、その後継社長の思うようにやらせていきます。しかし、以前のようには売上も利益も伸びません。とうとう我慢が出来なくなりました。後継者のやり方に口を挟むようになります。
自分が創業者として大きくしてきた会社ですから、その状況を見るのがつらいです。結局、後継者のやり方を否定して、また元の自分のやり方に戻してしまいます。伊丹教授の指摘する「大き過ぎる愛着」ですね。このお店の後継者は、決して能力の低い人物ではありません。時流の変化をよくとらえています。会社の方向性もしっかりと打ち出していますから、以前よりも経営方針が明確です。
売上や利益が伸びないのは、いくつかの原因があります。その一つは、先代経営者の方針によって溜まってしまった在庫の処分をする必要があったからです。またもう一つには、従業員の問題がありました。先代の商売のやり方に慣れている従業員は、新社長のやりかたになかなかなじめません。新しい方向性を理解させて動けるようになるには時間がかかります。その効果が出る前に先代がまた経営に戻ってきてしまいました。後継者にとっては、それまでに手掛けたことが水の泡です。このように、事業を引き継ぐのはなかなかうまく行きません。
引継ぎがうまく行っている事例
その一方で、うまく行っているお店もあります。
創業社長は高齢にはなっていますが、まだまだ元気です。エネルギーもあります。しかし、創業者は業績が好調なときに経営を引き継ぐことが重要だと考えました。きっぱりと息子さんに任せることにしたのです。
新経営者の経営に向き合う姿勢は、先代と変わりません。しかし、戦略は先代とは違います。時流に合わせて、ネット販売に力を入れ始めました。先代は、そのことに全く口を出しません。息子さんに任せっきりです。
先代はお店にちょくちょく顔を出しますが、ガット張りやユニフォームのマーク付けなどの作業を手伝うことしかしません。その代わり、商工会の役員をしたり、地域の世話役を進んで引き受けています。
この先代社長は賢いですね。お店にいれば、どうしても商売のことが気になります。そうならないために、自分の居場所を確保しているのです。そのせいもあってか、このお店の業績は好調が続いています。
規模は違いますが、これと同じようにジャパネットたかたの創業者高田明氏は、二代目の高田旭人社長に経営を任せて以降、いっさい口を出していません。しかも、その後の経営も順調です。うまく経営を引き継いだと思います。
そして、当の高田明氏はサッカーJ2のV・ファーレン長崎の経営者となって経営を立て直しました。自分の居場所を見つけたということです。事業を引き継ぐ事例としては、言うことありません。
さて、後継者に経営を引き継ぐ時期に来ているスポーツ店も多くあります。お分かりのように、引継ぎがうまくいかない理由は、後継者のせいではありません。それは、先代経営者の心構えにあります。どうか上手に経営を引き継いでいってください。
■今日のツボ■
- 経営の引継ぎがうまく行かない理由は経営者の心の中にある
- 加齢とともに認識力が低下するので、早い時期に引継をする
- ジャパネットたかたの経営引継ぎは成功事例である
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