元検事が明かすワイロの実態。政治家への裏献金が寄附に変わるカラクリ

 

2 政治資金規正法違反

政治資金規正法については、「寄附の相手方」、つまり、「寄附の帰属」が問題になります。

例えば、ある業者が、ある首長や議員に対してお金を渡した事実、つまり、「裏献金」を行った事実が明らかになったとします。

それに対して、業者のほうは、「政治家としての首長に寄附をした」と供述したとします。

寄附であれば、政治資金規正法上の処理を行う必要があるのですから、そういう手続がとられていない「裏献金」であれば、政治資金規正法に違反する違法寄附だと誰しも思います。

そのお金が、職務権限に関連する賄賂と言えるのであれば贈収賄事件で立件すればよいのですが、職務権限の関係などで賄賂性の立証が難しい場合は、政治資金規正法違反での立件を検討することになります。

そこで問題になるのは、「その寄附の宛先が誰なのか、どの団体なのか」ということです。

政治団体や政党は、寄附を受け取った場合には、その事実を毎年、政治資金収支報告書に正確に記載して提出しなければいけません。

その義務に違反して、記載すべき寄附を除外した収支報告書を提出すれば、政治資金収支報告書の「虚偽記入罪」になります。

また、政治家「個人」は、企業や団体から寄附を受けることが禁止されていますので、個人で寄附を受けたということになると、それ自体が政治資金規正法違反になります。

しかし、「裏献金」というのは、政治資金規正法上正規の手続がとられていないのですから、政治資金の届出などの手続からは、寄附の宛先は特定されていません。

首長や議員などの政治家については、いくつもの「政治団体」や「政党支部」が作られていることが多いのですが、そうすると、「裏献金」がそのうちのどれに帰属する(どれに宛てた)ものなのか、或いは政治家としての首長個人に帰属するものなのかは、外形からはわかりません。

「政治家にこっそり金を渡した」という場合、現金を入れた封筒に「何々様」「何々政治団体様」「何々後援会様」と書いていれば、寄附の宛先が政治家個人なのかどの政治団体なのかがわかり、どのように政治資金収支報告書に記載すべきだったのかということがわかります。

ところが、とにかくその政治家に金を渡せばいいということで渡したお金であれば、普通、そんなことを封筒に書いて渡したりはしません。

そうなると、どこの政治団体に帰属すべき寄附なのか、どの収支報告書に記載すべきだったのかということがはっきりしないのです。

当事者の意思としても、「裏献金」の場合は、正規に届出が出されている政治団体に帰属させようということも、政治家個人への違法寄附だということも、明確に考えていたわけではないというのが普通です。

そうなると、政治資金規正法上の正規の手続をどのようにしたらよいのかということが確定できず、政治資金規正法違反と構成することが困難だということになってしまうのです。

賄賂的な事件を政治資金規正法でやろうとすると、そこが最大の問題になります。

それが、「政治資金規正法がザル法だ」と言われるゆえんでもあるのですが、それは、政治資金規正法における「寄附」というのが、賄賂的な金のやり取りや「裏献金」のようなものではなく、寄附として表に出していて正規の手続の外形を備えている「寄附」を前提にしているからなのです。

そのようにして「表に出ている寄附」について、法の制限に反しているとか、手続に不備があるとか、寄附の額が制限を超えているなどということであれば、政治資金規正法が適用できます。

しかし、「闇献金」は、表に出さず、「裏」でやり取りするものなのです。

そうなると途端に政治資金規正法が適用しにくくなるというのが、一つのパラドックスなのです。

議員などの政治家が業者から金をもらったという事件の場合、職務権限との関係が常に問題になり、贈収賄で立件するのは容易ではありません。

そういう場合には、政治資金規正法の罰則を適用して何とかできないかということになるのですが、実際には、政治資金規正法というのは、そういう「贈収賄崩れ」的な事件を処罰する機能は限られているのです。

政治資金規正法違反で摘発しやすい事件には、いくつかのパターンがあります。

いずれも、長崎地検の独自捜査で手がけたものです。

一つは、政党の地方組織のように、組織の実体があって、通常は、正規の寄附の受け入れ手続が行われている場合に、その一部を「裏献金」として受け取ったという場合。

もう一つは、政治資金パーティーの収入に関して、一部を収入から除外して裏に回したという場合です。

いずれにしても、政治資金規正法の立件には、非常に複雑困難な問題があるのが普通です。

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