元検事が明かすワイロの実態。政治家への裏献金が寄附に変わるカラクリ

 

「贈収賄」について

1で話しているように、日本の刑法には、「便宜供与」やその依頼がなくても成立する「単純収賄罪」が規定されているので、その点では賄賂罪の処罰範囲は広いと言えます(一方、諸外国では、公務員以外の民間人に対する賄賂も一定の範囲で処罰の対象となる国もあり、その面では処罰の範囲が狭いということになります)。

吉川元農水大臣に対する現金供与が、報道どおりだとすると、鶏卵業界からは、農水省に対して、様々な要請が行われていたようですし、吉川氏への現金供与が、そのような要請と全く無関係と言えない限り、「職務に関連する金銭の授受」ということで単純収賄罪が成立することは否定できないように思います。

昔から、検察として、国会議員については、「受託収賄」が立件できる場合が立件の条件と考えられてきました。国民に選ばれた国会議員なのだから、単純収賄程度で、刑事事件にすべきではないという考え方だったのです。

そういう「受託収賄しばり」のルールが今も生きているとすれば、「請託」、つまり、何らかの具体的なお願いがあったということでなければ、吉川氏の収賄罪による立件は容易ではないことになります。

ただ、昨年末、東京地検特捜部が逮捕した秋元司議員の事件は、単純収賄で起訴されていますので、ハードルが下がっているようにも見えます。

検察の判断如何ということになります。

「政治資金規正法違反」について

そこで、もし、収賄罪で立件できないのであれば、現金の授受を政治資金規正法違反で立件すれば良いのではないかという話になります。

しかし、それも、本文に書いたように、「裏献金」は、どこの政治団体、政党支部に帰属するのかが特定できないと、政治資金収支報告書の記載の問題にしにくいのです。それは、本文でも話しているように政治資金の「一つのパラドックス」だと言えます。

このように考えると、吉川氏が大臣室で現金を受け取ったという問題も、典型的な「闇献金」だとすると、政治資金規正法違での立件は容易ではなく、結局、贈収賄の立件ができるかどうかがカギということになります。

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image by: 吉川貴盛Facebook

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1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事として独禁法運用強化の枠組み作りに取り組む。東京地検特捜部、長崎地検次席検事等を通して、独自の手法による政治、経済犯罪の検察捜査に取組む、法務省法務総合研究所研究官として企業犯罪の研究。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。同大学コンプライアンス研究センターを創設。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。

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