笑ってはいられない「ガースー内閣」支持率どん底の深刻な裏事情

reizei20201222
 

朝日新聞による世論調査でも政権発足時は65%という高さを誇っていたものの、直近の調査では39%とまさに大暴落となってしまった菅首相の支持率。その理由としてコロナ対策の失敗やネット番組での「ガースー発言」を挙げる向きもありますが、「根本原因」はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、2020年代の政治指導者に求められる困難な課題への挑戦を「ファクター2020」としその本質を探るとともに、菅首相が直面している問題や置かれた立場を考察しています。

菅総理は何に直面しているのか?(国家指導者論)

菅総理が支持率低下に苦しんでいるようです。そうは言っても、「5人以上と会食した」とか、「ガースーと自称」して評判を下げたというのは、キッカケに過ぎません。世論の中に何か漠然とした不信や不安があり、それを「何か分からぬままに」面白半分に火をつけたメディアが犯人と言えます。

では、メディアが悪であって、世論や総理本人は罪はないのかというと、そういう問題でもありません。政治における「何か」、それこそ2020年代の政治をどうするかという「ファクター2020」のような何かがウゴめいており、世論における不信も、菅総理の「スランプ」もそこから来ているように思われます。

ということは、今回の支持率低下の中には、日本における2020年代の「指導者論」というような形で、その「ファクター2020」を探すことが重要になってきます。ところで、この「ファクター」を「2020」としたのは「X」とすると、山中伸弥博士の言う「コロナに強い原因のナゾ」という話と「かぶる」ので他に理由はありません。

さて、指導者論ということで言えば、18世紀から19世紀の世界では、そもそも大統領など国のリーダーの言動が日々の日常社会に影響を与えるということも限定的でした。例えば、欧州の多くの国では立憲君主制の奥に寡頭政治を抱えた政体が国を回していましたし、日本も同様でした。アメリカの場合でも、建国直後の大統領は国民全員参加の直接選挙ではなかったわけです。

そうした指導者たちは、現在よりはずっと国民との距離がありました。ですから、各国は秘密同盟を網のように回らすなど、かなりいい加減な政策ができてしまっていたのです。この点に関しては、19世紀を通じて、世論を意識した政治への変化をして行きました。例えば、1870年の普仏戦争の勃発に際しては「エムス電報事件」という新聞を使った世論操作が行われています。

20世紀に入ると変化が加速しました。新聞とラジオの普及が民主政治の性格を大きく変えていったのです。例えば、第一次世界大戦は新聞が作り出した戦争だということがよく言われます。国家の総力戦が破滅的なレベルまで継続されたのには、新聞が世論を煽ると、政権としては引っ込みがつかない事態に陥るからです。そもそも、アメリカが孤立主義を捨てて参戦したのは、「ルシタニア号事件」という商船沈没事件によって世論が動いたからでした。

一方で、第二次世界大戦で大きな要素となったのはラジオでした。日本でも、大本営発表のラジオニュースが世論誘導の大きなツールとなり、その世論が陥った自滅のモメンタムを停止させるのにも、昭和天皇による肉声(玉音)をラジオ放送するということが必要になったのでした。

アメリカでも、大恐慌と戦争指導において当時の大統領であったフランクリン・ルーズベルトは、国民にダイレクトに呼びかける「ファイヤーサイド・チャッツ(炉辺談話)」というのをラジオでやって大成功を収めました。

余談になりますが、新聞やラジオというのは、情報量が少ないために戦争指導を恣意的に歪めることができたわけですが、TVというのは「何でも映像化してしまう」ために、戦争の悲惨を暴露してしまった、従って、例えばアメリカがベトナムで敗北したのは、TVのためだという議論があります。

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