老化もガンも糖尿病も2040年には“治る病気”に。生体プログラミングの今と未来、mRNA医療ビジネスはどこまで拡大するか?

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新型コロナ撃退の切り札として期待されるmRNAワクチンですが、この「mRNA」はその他さまざまな病気の治療にも応用が期待されています。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者で「Windows 95を設計した日本人」として知られ、新世代プレゼンツール『mmhmm(ンーフー)』の開発にも参加している世界的エンジニアの中島聡さんが、その大いなる可能性を紹介。ノンコーディングRNAや遺伝子情報を活用した「未来の医療」について詳しく考察しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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2040年の未来:生体プログラミング

先週の質問に、成毛眞さんの『2040年の未来予測』という本に絡めて私にも「未来予測の書籍を出して欲しい」というリクエストがありました。未来を予測することはとても難しいですが、「自分がその分野の起業家であったら、どこを攻めるか」という観点であれば、考えることはとても良い頭の体操になります。

そこで、まずは私が医療関係のベンチャー企業を立ち上げる場面を考えて、思いつくままに書いてみます。

最初に思いつくものとしては、COVID-19ワクチンで話題になったmRNA(メッセンジャーRNA)の医療への応用があります。少し前に書いたように、今やDNAプリンターを使って、設計図通りのmRNAを作ることが可能なので、あとはソフトウェア(=塩基配列)の勝負になります。

mRNA上の塩基配列はタンパク質の設計図なので、特定の塩基配列を持ったmRNAを体内に注入することにより、いかなるタンパク質でも体に作らせることが可能になったのです。

COVID-19ワクチンのように、ウィルスや細菌のタンパク質の一部をmRNAを使って体に作らせることにより、免疫力を持たせるというワクチン的な使い方は当然考えられます。今後、COVID-19だけでなく、インフルエンザや他の伝染病に関しても、mRNAが応用されることは確実です。

しかし、それだけでなく、mRNAを使って免疫系を活性化させて癌を攻撃させる、アルツハイマーの原因になる老廃物を破壊する、体に有用な働きをするタンパク質をmRNAによって作らせる、など色々な応用が考えられます。

従来の薬剤投与の代わりに、mRNAを使って体に必要なものを作らせるという形の医療を目指すのも悪くないと思います。例えば、糖尿病の患者にインシュリンを投与する代わりに、インシュリンの生産を促すようなmRNAを体に送り込むようなアプローチです。

マラソン選手は、赤血球を増やすために、高地でトレーニングをしたり、低酸素テントで眠ったりしますが、その代用として赤血球の生産を促すmRNAを設計するのも悪くないかも知れません。極端な話、ドーピング検査に引っかからずに筋肉を増強するようなmRNAの設計すら十分に可能に思えます。

mRNAが成長期の子供たちに与える影響はまだ完全に理解されていませんが、ホルモンの直接投与よりも安全で負担の少ない形で、mRNAを使った「ホルモン治療」が可能になっても不思議はありません。

mRNAはタンパク質の設計図でですが、別の役割を果たすRNAのことをノンコーディングRNA(もしくは、ファンクショナルRNA)と呼びますが、これを使った医療にも色々な可能性があると私は見ています。

既にノンコーディングRNAを使って、出生後にダウン症の治療を行おうという基礎研究もされており、ここにも大きな伸び代があるように私には見えます。

役目は若干違うものの、mRNAもノンコーディングRNAも、生体に対する「プログラム=インストラクションセット」であることには代わりはなく、それらを活用して行う医療は、「生体プログラミング」そのものなのです。

その適用範囲は、人間だけにとどまらないため、農産・畜産・水産などにも応用範囲を広げるのも悪くないかも知れません。特定のmRNAを注射するだけで、普通の牛の肉が上等な霜降り肉になるのであれば、大きなビジネスになると思います。

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