零下8度でコート着用は4人だけ。金正恩「人民第一主義」の虚しさ

Pyongyang, North Korea 12 29 2020Pyongyang, North Korea 12 29 2020
 

この度、「人民大衆第一主義」と党の理念を変更した、北朝鮮の金正恩総書記。人民の生活向上に目を向けることが期待されましたが、先日行われた軍事パレードではそうとは思えない光景が見られたようです。メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんが、その話題について詳しく紹介しています。

4人だけが着た高級黒革コート。金正恩が掲げる人民大衆第一主義って何?

北朝鮮の冬の寒さは厳しい。大正11年1月18日に白頭山に近い中江鎮では、零下41度6分を記録している。この時期の朝鮮半島や中国東北部は、いわゆる「三寒四温」がはっきりしており、「3日間耐えると暖かくなり、3日を乗り越えよう」と、この季節に皆で励ましあう決まり文句だと、脱北者が語っていた。

ただ、三寒の日も四温の日もマイナスの気温が続くと、太陽の日差しが眩しい昼間は、この陽光を浴びれるのが一番の幸せな時間だと、朝鮮半島北部の山間地域に住む人たちは夜の「火喰い」(薪などで暖をとること)とともに、日中の太陽光を大事にする。

このように寒さが厳しい冬季に、北朝鮮の金正恩総書記は、1月14日の夜、第8回朝鮮労働党大会を祝う軍事パレードを挙行した。

当夜は零下8度の寒さで、ひな壇に姿を現した幹部らのうち、金正恩、金与正、趙甬元(金正恩総書記の最側近)、玄松月(金正恩総書記の秘書役で元歌手)の4人のみが、黒光りする高級黒皮コートを着用しており、手袋をはめているのは金正恩総書記だけだった。

なぜ私がこの4人の黒皮コート着用の話を持ち出したかと言うと、「冬に、日差しが入る窓際の席に座る者は権力者の象徴だ。反対に、夏の窓際には一番力がない者が座る。教室には冷房施設も、太陽光を遮るカーテンも存在しない」という話を聞いていたからである。

金正恩総書記は、8次の党大会で「現在、農村をはじめ市郡の人民の生活が非常に困難で立ち遅れている」とし、「これからは地方経済を発展させて、地方の人民の生活向上に注目を向ける」と約束し、党の指導理念も「人民大衆優先(第一)主義」に変更したばかりであった。

この日の閲兵式は、3か月前に行われた朝鮮労働党創建75周年記念の深夜の閲兵式よりも1時間ほど短かったというが、寒波の中、照明で平壌を舞台にし、閲兵式を楽しんだというから、朝鮮人民からは、かけ離れた“人民大衆第一主義”なのか。

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