今回のアシックスのリサイクル素材の活用は、靴の製造に使う素材の一部を、ゼロから作るのではなく、ペットボトル素材のリサイクル品を使う、ということになります。
今まで使っていた素材をリサイクル素材に変えて生産をすると、効率が悪くなって、製造コストは上がります。
しかし、アシックスのホームページには、はっきりと、
「CSR・サステナビリティ事業のあらゆる場面でサステナビリティ(企業と社会と環境の持続的発展)に配慮しています」
と書かれています。
さらに、製品の企画開発から生産、販売までの流れの中で様々な工夫をすることで、販売価格への転嫁は最小限に抑えていく、と明言もしています。
その事例として、製品を卸売業者や小売業者に届ける「流通」の段階での工程や無駄を見直してコストを下げる努力をする、と宣言しているのです。
その上、コストを下げて価格をおさえることのみではなく、工場での生産過程も工夫して、環境に負荷がかからないようにするとか、直営店で商品を並べる什器をできる限り再利用するなど、企画から流通を経てお客様の手に届くまでの各工程で、環境のことを考えるという工夫をしているのです。
その意味では、一段進んだリサイクル素材を活用した、製品開発から流通対策までの流れを作ったと言えます。
この製品が消費者の手元に届くまでの流れを「製品の供給の流れ」という意味で「サプライチェーン」と読んでいました。
それを今は、工程ごとに自社製品に「付加価値」をつける、という意味で「バリューチェーン」と呼びます。
これまでのバリューチェーンの考え方は、製品に新しい機能をつけたり、売り方を工夫したり、といった足し算が多かったのですが、これからは今回のアシックスのように、同じ足し算でも環境面での足し算や、無駄やロスを省く引き算を積み上げたバリューチェーンが増えていくでしょう。
アシックスの例を見ても、環境を配慮するということを念頭に置いてリサイクル素材を使うことになると、様々なコストが割高になりますし、そのための設備投資や、各工程への周知などのコストもかかります。
しかし、やはりSDGsに始まる、環境問題を考慮するという機運は、今や大きなうねりのように社会を席巻しています。
したがって、「この会社は環境に優しい」という方針を掲げた企業や製品のブランドイメージは、商品を買う時に消費者が選ぶ大きな理由になります。
デザインや靴の軽さだけではなく、会社としての取り組みも差別化の要因になるのです。
今回のアシックスは、短期的には様々な投資をしても、長期的に地球環境に優しくすべきと考え、さらに企業イメージの向上も合わせて考えた長期的な環境考慮戦略を打ち出したのでしょう。
その意味でも、これからのアシックスが環境問題に配慮した、どのような製品を出していくのか、それによってどんな差別化をしていくのか、注目に値しますよね。
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