日テレ『スッキリ』アイヌ民族差別発言で露呈した「無知」という罪

 

もちろん、日本テレビにも脳みそ夫さんにも悪意などまったくなかったと思います。しかし、SNS上に「最低限の勉強をしてほしい」という声があったように、知らないということは、時として罪となってしまうのです。

あたし自身も、同様の経験があります。今では完全に差別用語として認識され、誰も使わなくなりましたが、あたしが子どもの頃は、まだ「バカチョンカメラ」という言葉がありました。シャッターを押すだけで誰にでも写せる簡易カメラの俗称でしたが、あたしは周りの人たちに倣って、この言葉が差別用語だと知らずに使っていたのです。あたしは、小学校高学年の時にこの言葉の意味を知り、こんなに酷い差別用語を何も知らずに使っていた自分の無知を恥じました。

小学生だったあたしは誰かを傷つけたわけではありませんが、もしも当時のあたしが大人で、芸能人で、テレビで同様の言葉を使っていたら、今回の脳みそ夫さんと同じことになっていたでしょう。その言葉が差別に当たるとは知らずに、何の悪意もなく使っても、言われた側は傷ついてしまいます。そのため、特にテレビやラジオなど不特定多数の人が観たり聴いたりしている媒体の場合は、二重、三重のチェックが必要だと思います。

今回の『スッキリ』の放送の前日の3月11日、政府主催の「東日本大震災10周年追悼式」が行なわれましたが、あたしはラジオで菅義偉首相の式辞を聴いていて、とても腹が立ちました。それは「この10年で被災地の復興は着実に進展した。復興は総仕上げの段階に入った」という文言です。政府はとにかくこれまでの実績をアピールしたかったようで、短い式辞の中に二度も「総仕上げ」という言葉が使われていました。しかし、実際に被災地を隅々まで見てみれば、「総仕上げ」どころか、まだスタートラインにすら立てていない地域も数多くのあるのです。

菅義偉首相は、昨年9月の就任直後に福島を視察し、12月には岩手と宮城を視察し、今回の追悼式の直前の3月6日にも福島を視察していますが、一体、何を見て来たのでしょうか?式辞の原稿はスピーチライターが書いたものですが、登壇の直前に手渡されて初見で棒読みしたわけではありません。何時間も前に渡されて、何度か下読みしているのですから、本当に被災地を視察して来たのなら「この『総仕上げ』という表現は事実に反している」と気づき、書き直すのが普通です。

自分の言葉が多くの被災者を不快にさせるということが分からずに、渡された原稿をそのまま棒読みしてしまう首相。これは「被災地の現実」や「被災者の気持ち」がまったく理解できていないことを証明しています。その言葉が差別に当たると知らずに放送してしまうことも、その言葉が人を不快にさせると気づかずに口にしてしまうことも、どちらも「無知」が原因の失敗なのです。

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