『羅生門』の男と同じ。SNSでターゲットを死にまで追い込む人々

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時としてターゲットを死にまで追いやるSNS上の罵詈雑言が今、社会問題となっています。なぜ人はそこまで「残酷」になれるのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では文学博士の鈴木秀子さんが、そうした人々を芥川龍之介の名作短編『羅生門』に登場する下人の男になぞらえ、「自分は正しい」と思い込むことの危険性を指摘しています。

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SNSと『羅生門』の世界

芥川龍之介の代表作である『羅生門』。荒廃した京を舞台に繰り広げられる下人と老婆の人間模様は、現代社会を象徴するものであると本誌連載でお馴染みの鈴木秀子さんは語られます。この小説は私たちにどのようなメッセージを送っているのでしょうか。


主人公の下人は、この荒れ果てた羅生門の下で、行く宛てもないまま雨が止むのを待っていました。住む家も職も失っていた下人は、「盗人になるより仕方がない」と思いを固めて楼閣の梯子を上っていきます。そして、そこで一人の老婆の姿を目にします。老婆は羅生門の上に無造作に捨てられた死骸の髪の毛を一本一本抜いていました。それは想像するだけでも背筋が凍るような光景です。

(中略)

老婆の姿を見た途端、下人の心の中で、あらゆる悪に対する反感が強さを増してきたという場面から、私はこのところ大変気になるある現象を思い浮かべます。それは、特定の人にターゲットを絞ってとことん追い詰めるSNSの負の一面です。

繰り返し罵詈雑言を浴びせかけ、最後は自殺にまで追い込んでしまう人間の心理状態は異常という他ありません。この悪しき風潮の引き金になっているのは、間違った自己中心的な正義感です。気に入らないことがあると自分は正しい、相手は間違っていると決めつけ、あたかも正義の権化になったかのような錯覚に陥って他人を攻撃してしまうのです。時にそれは麻薬のように人間を狂わせる破壊力すら持っています。

下人はずっと鬱々とした状態でいました。そういう時、目の前に老婆が現れるや、たちまち正義の塊のように心が変化し、どこからともなく力が湧いてくるのを感じます。下人の意識はその時、それまで自分が盗人になろうとしていたことすらどこかに吹き飛んでいたのです。この下人のように、私たちの心も何気ないきっかけによってマイナスの方向に大きく舵を切る危険性を秘めています。殊にいまのコロナ禍のような圧迫された空気に覆われた時、下手をすると人を叩きのめすことで自分を守ろう、気晴らしをしようとする本性がむきだしになりかねません。

SNSのような相手の顔が見えない世界においてはなおさらです。そういう落とし穴が生活のいろいろなところに潜んでいることを知らなくてはいけません。

(中略)

正義という言葉は確かに力強く耳心地のいい響きがあります。しかし、正義は自分から見れば正しくても、相手から見ればとんでもない思い上がりであることもあるのです。善悪を判断する物差しは人によって皆異なります。だとしたら、「自分は正しい」「間違っているのは相手だ」という思い込みを一度手放して、相手の立場に立って冷静に物事を捉える習慣が私たちには求められます。


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