五輪中止なら晒し者。菅首相にとって最悪のシナリオが近づいてきた

 

いつになったらワクチンは届くのか

その菅が“決め手”として期待を掛けているのがワクチンである。が、3月19日現在までに到着した5回の輸入の合計は46万3,000瓶、1瓶で6回接種できるとして278万回分、1人が2回打つので139万人分、つまり人口の1%程度の必要を満たすだけの量である。しかも、それだけのものが届いていて、同じく19日現在で実際に接種を受けたのは55万3,454人、そのうち2回接種を完了したのは2万5,381人、つまり人口の0.02%程度に留まっている。これが政府のワクチン戦略の実際のテンポである。

政府は一応、3月中にさらに446万回分、4月中に1,226万回分、5月中に4,300万回分と、輸入が急加速される見通しを明らかにし、そのうち4月19日までの分について都道府県別の配分予定量を発表しているが、それとても、メーカーの生産動向やEUの域外輸出規制などの影響でその通りに入ってくるかは、運を天に任せるしかない。

それで困るのは自治体で、まず集団接種のための体育館や集会所などの大きな会場を設営し、そこに必要なだけの数の医師・看護師を必要なだけの期間にわたり確保し、特にファイザー社製のワクチンの場合はマイナス75度の超低温で衝撃を与えないように配分し保管する体制を整えなければならないが、本当に予定通り来るのか来ないのか確信が持てなければ、それだけの全神経を集中した「臨戦体制」を敷くことは難しい。とすると、4月12日から高齢者への接種を始めると言うけれども、どのタイミングで「接種券」を郵送したらいいのかの判断も難しくなる。

すべて見込みで進めてしまって、例えばの話、接種券を受け取った老人が杖をついて会場まで何とか辿り着いたのに、ワクチンが届いていなかった、医者が足りなかったと言って追い返す訳には行かない。そんなことが1件でも起きれば、政府への信頼は最終的に崩壊する。

マイナンバーは使えない

接種データの記録とそれに基づくアフターケアも相当に心配で、昨年12月段階の厚労省方針は、超伝統的な「予防接種台帳」にアナログで記録して、言わば手作業で集計するということだったが、今年に入って平井拓也=デジタル担当大臣が「マイナンバーの活用」と言い出して自治体の現場は混乱した。接種権を紛失した、1回目を打った後に転居してしまった、既往症との関係でフォロー観察が必要など、さまざまな波乱要因が出てくることが想定されるので、それをマイナンバーで電子的に管理できれば確かに便利かもしれないが、3月1日現在の人口に対する普及率は何と15.5%にすぎず、これが活用できるはずがない。

こうしてみると、ワクチンを巡る事態はかなり絶望的で、これはさしたる根拠もなしに山勘で言うのだが、7月の五輪開催前までに医療関係者450万人への2回接種が完了していれば上出来。高齢者への摂取は4月12日に「やってます」というフリができる程度に始めるだろうが、夏までに終わらせるのは到底無理で、たぶん秋までかかるだろう。そうすると一般の国民にワクチンが届き始めるのは早くて秋、下手をすると来年になってしまうのではないか。

このように、日本政府のコロナ禍対策がすでに半壊状態にある中で、それをあと数カ月で全面的に立て直して7月に五輪を開くというのは、全くもって無謀な選択でしかない。

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