五輪中止なら晒し者。菅首相にとって最悪のシナリオが近づいてきた

 

JOCも崩壊状態へ

おまけに、実施主体である日本五輪委員会、東京五輪組織委員会がボロボロ、ズタズタ状態にある。森喜朗=組織委員会代表のセクハラ辞任に続く直近の話題は、広告会社=電通が送り込んだ「開会式」演出統括責任者の佐々木宏が「オリンピッグ」という洒落にもならない暴言で女性タレントを侮辱して辞任を余儀なくされた事件で、当日まで4カ月しかない中で演出が果たして間に合うのか。

佐々木は、16年リオでの五輪誘致合戦で安倍晋三首相にスーパーマリオの衣装を着せて登場させる演出で評判になったディレクターで、それを森喜朗会長が大いに気に入って開会式演出家に登用した。しかし、「スーパーマリオ」にしても「オリンピッグ」にしても、そう言っては悪いが、高校の学園祭レベルの幼稚な企画で、こんな程度の者を電通のエースだとか言って差し出してきたのだとすると、危ういのは電通そのものである。

17年12月に東京五輪開会式の演出チームとして発表されたのは、山崎貴=映画監督、野村萬斎=能楽師、川村元気=映画プロデューサーらだった。が、これにスーパーマリオ演出の佐々木や椎名林檎などリオのメンバーを加えるように圧力をかけたのは(週刊文春によれば)森で、彼は山崎を降ろして野村、それも気に入らなくなったので外しMIKIKOへと首を挿げ替えた。

MIKIKOによる演出案はほとんど出来上がっていて、IOCに対しても事前プレゼンテーションをして称賛を得ていたのだが、なぜか佐々木が出て来てMIKIKOを排除、4代目の責任者に収まった。その挙句の今回の事件で、結果的にいま現在、開会式の演出案は白紙状態。普通に考えて、これほどの大きなイベントは、2年前から企画が始まって1年前には中身が固まり数百人規模の出演者との契約も成ってリハーサルを始めなければならない。4カ月前になってプロデューサーの首が飛びノー・アイディア状態だというのでは、まともな開会式などできる訳がない。

菅内閣はすでにどん詰まり

しかし菅にとっては、五輪中止という選択はあり得ない。元々脆弱な党内基盤しか持たない彼にとって、長期とは言わないまでも中期、2~3回の総裁選を乗り越えて政権を維持する可能性があるとすれば、まずは今年9月の自民党総裁線と10月の衆議院任期満了による総選挙をどう乗り切るかである。

彼にとってのベスト・シナリオ、すなわち希望的観測の極致は、

  • 6月までにコロナ禍がほぼ収まり、7月には内外の観客を入れての競技が行われて、まあいろいろあったがまずまずの「成功だった」との評価を得たい
  • それを背景に、9月の自民党総裁選では、出来れば無競争で再選されたい
  • その上で、10月に総選挙を行い、勝利して盤石の政権基盤を培う

しかし、事態がこのように進むことはほとんどあり得ない。逆に彼にとってのワースト・シナリオは、

  • コロナ禍は内外で収まらず、海外からの観客のみならず選手団が来日することも叶わなくなって、五輪は中止
  • 菅はすぐにでも引責辞任したいが、自民党的にはここで辞められても困るので、壁のフックに首筋を引っ掛けた姿で9月まで晒し者にし、悪いことのすべてを押し付けてから捨てる
  • 総裁選は、誰がなると10月総選挙の負けが小さくて済むかの選択となり、その観点からすると石破茂や岸田文雄はすでに半ば過去の人になりつつあるので、河野太郎、野田聖子あたりが軸となるのではないか

事態は、限りなく菅にとってのワースト・シナリオに近づいていくことだろう。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年3月22日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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