なぜ公的機関のアンケート調査はデジタル化されず手作業のままなのか?

 

3.販売員の双方向メディア

私がアパレルでMDをしていた頃、売れ筋を予測する上で、最も頼りにしていたのは「販売員の声」だった。「店頭の様子は売上数字を見れば分かる」という人もいるが、私はそうは思わない。販売員は最高のセンサーであり、販売員の頭の中には数字以上の情報が詰まっているのだ。

例えば、商品を手にとって、迷ってから棚に戻した人がいたとする。何を迷ったのか、なぜ買ってもらえなかったのか。それが分かれば、次の商品企画の役に立つかもしれない。あるいは、競合店で良く売れているアイテムが、自分の店にもあったら売れたのに、と思っていたとする。そんな情報も重要だ。

商品が色欠けしていて、売上を逃していることが分かれば、次回から色の数の配分を変えることができるだろう。こうした細かい改善の蓄積が売れる店に変えていくのである。

また、販売員のモチベーションを上げると、店の売上は伸びる。販売員はキャリアアップのための勉強をしたいと思っても時間がない。「結局、自分は使い捨ての存在だ」と思うようでは、モチベーションも下がる一方である。

例えば、販売員全員に週1回、一つだけ販売のポイントを伝え、一つだけ質問する。販売員は、その日のうちに、質問に回答し、自由コメントを書く。翌日か翌々日に、販売員から集めた回答やコメントをフィードバックする。

内容にもよるが、これを続けることにより、少なくとも販売員は孤独感から脱し、仕事にリズムが生れるのではないだろうか。販売員は常にノルマを与えられるだけで、誰にも自分たちの声を届けられない。その閉鎖的な環境を改善できるかもしれない。

4.アンケートによる民間短観

日銀短観という調査がある。これもアンケート調査であり、オンライン、FAX等で回答を回収している。

日銀のサイトによると、「統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としています。全国の約1万社の企業を対象に、四半期ごとに実施しています。

短観では、企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどうみているか、といった項目に加え、売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値など、企業活動全般にわたる項目について調査しています」とのこと。

日銀ほど大規模かつ正確な調査はできないが、民間短観があってもいい。最近と先行きの動向を予測するという意味では、アパレル短観があってもいいし、テキスタイル短観があってもいい。売上、利益、価格、需給バランス、雇用、設備投資、資金繰りの最近の状況はどうか、そして、先行きはどうなりそうか。

商店街短観、伝統工芸短観、観光短観はどうだろうか。地域ごとの短観も良いかもしれない。都内でも墨田区短観、荒川区短観など、23区の短観があれば、地域特性が明らかになる。

高校生短観、中学生短観で、学校内の雰囲気の先行きが分かるかもしれない。子育て短観、介護短観はどうだろうか。現場の人の予測が共有できれば、政治家や行政も動かせるかもしれない。

民間短観ではコメントも募集したい。大手マスコミの情報が信用できないなら、自分たちが発信すればいいのだ。

編集後記「締めの都々逸」

「幾千万の 声聞くよりも あなたの声だけ 聞いてたい」

多数の人に聞くのがアンケートで、一人に聞くのがインタビュー。この2つの手法だけで作る新聞があったら、私は購読します。そして、その結果をニュース番組のようにYouTubeで配信する。インタビューも一緒に配信すれば、記録に残ります。

既存のメディアの批判をするなら、みんなの声を集めてみる。もちろん、間違っていることや誤解もあるでしょうが、個人的には日本人の集合知はたいしたものだと思っています。政治家のコメントより有効でしょう。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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