国民の命より聖火リレー優先。菅政権「政治プロパガンダ」の本末転倒

 

そして、その批判の声は、思わぬところからも発信されました。それは、全米での東京五輪の放送権を持つアメリカの4大放送局の1つ、NBCです。2014年のソチ五輪から2032年までの冬と夏の五輪すべての放送権を約76億5,000万ドル(約7,800億円)で取得しているNBCは「どんなことをしても五輪を開催してもらわないと困る」という立場です。そのNBCが自社のニュースサイトに、3月25日付で、東京五輪の聖火リレーを批判する記事を掲載したのです。

記事の執筆者、ジュール・ボイコフ氏は、現在50歳の元プロサッカー選手で、アメリカの五輪代表にも選ばれたことがあります。米パシフィック大学で政治学の教授をつとめており、『パワーゲーム オリンピックの政治史』を始め、スポーツと政治に関する書籍を複数刊行しています。つまりボイコフ氏は、オリンピックと政治、両方の専門家というわけですが、その専門家が、東京五輪の聖火リレーを批判する記事を書き、それを東京五輪の放送権を持つNBCが発表したのです。

それは「新型コロナの恐怖の中、東京五輪の聖火リレーが始まった。この火は鎮火すべきだ」というタイトルの記事でした。あたしは全文を読みましたが、まるであたしが書いたのかと思うほど、歯に衣着せぬ直球ド真ん中の表現だらけでした。日本のメディアの中にも、この記事のほんの一部を紹介した媒体もありましたが、日本のメディアの大半は五輪のスポンサーなので、記事の核心部分には触れませんでした。そこで、あたしが記事の核心部分について、以下、日本語に訳して紹介したいと思います。

● ジュール・ボイコフ「新型コロナの恐怖の中、東京五輪の聖火リレーが始まった。この火は鎮火すべきだ。(聖火リレーはナチスによって確立された伝統であり、これにより新型コロナの感染拡大のリスクが増す)」(2021年3月25日)

東京五輪の主催者は3月25日に日本で聖火リレーを開始し、7月23日の開会式のために五輪スタジアムに到着するまで、全国で1万人の聖火ランナーが複雑なコースを走り回ります。しかし、新型コロナのパンデミックの中での今回の聖火リレーは、さらに感染を拡大させるリスクがあります。そもそも五輪の聖火リレーは、ナチスがプロパガンダに利用したことから始まった負の伝統であり、消滅すべき悪習です。

2011年3月、福島県は、地震、津波、原発事故という三重の苦しみによって大きな打撃を受けました。「復興五輪」と銘打たれた今回の東京五輪は、福島県を聖火リレーのスタート地点に選びましたが、この地域の多くの人々は、福島の復興の遅れの原因が東京五輪だとして、東京五輪を非難しています。それは、多くの資材などが被災地の復興よりも東京五輪優先で転用されたからです。福島県を視察したスポーツジャーナリストのデイブ・ジリン氏は「こんな光景は初めて見ました。復興を掲げた聖火リレーのスタート地点に、まさか五輪によって復興が遅れている場所を選ぶなんて、これ以上の皮肉はないでしょう」と述べました。

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