中国と全面戦争か。日米首脳共同声明の「台湾」明記で迫られる決断

 

そうしたお膳立てを整えたうえで開かれたのが4月16日(現地時間)の日米首脳会談だった。同14日のNYタイムズに以下のような東京特派員の記事が掲載された。

菅氏は、関税引き上げの脅威や、気まぐれな前任者のように、常にお世辞を言う状況に悩まされることもないだろう。…日本は、アジアの安定を脅かす最大の脅威である中国にもっと正面から取り組むよう、米国から求められる危機的状況に直面している。…戦後、米国が日本と同盟を結んで以来、東京はワシントンに保護の安心感を求め、一方でワシントンは東京に独自の防衛を強化するよう促してきた。…今、菅氏がワシントンに行っている間に、日本は自分の裏庭に迫り来る危険に直面している。

日本もアメリカも、中国依存の経済であるという現実は変わらない。しかし、アヘン戦争、日中戦争で失った領土と威信の回復に執着する中国の膨張をこのまま許せば、台湾はおろか日本も侵食されかねず、やがては米国をしのぐ軍事力をそなえて、共産党独裁の中国が世界の覇権を握る恐れすらある。

菅首相を待ち構えるバイデン大統領が「2プラス2」の時点から、日本側に突きつけていたのは、台湾有事のさいに日本は米国とともに戦えるか、そして、経済安全保障の観点で「脱中国依存」をはかれるかということだ。日本政府の覚悟を、ぜひとも日米共同宣言の文中に盛り込みたいと、米国側は要求していたのだ。

日本の経済界からは、「台湾」という具体的な言葉を文章に入れないでほしいという要望が上がっていたと聞くが、「台湾」は共同宣言にしっかりと書き込まれた。日米首脳が共同声明で「台湾」に言及したのは、1969年のニクソン大統領と佐藤栄作首相の会談以来のことだ。

日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。

東シナ海における一方的な現状変更や、南シナ海の海洋権益をめぐる中国の荒々しい活動への反対意思を表明したうえでの「台湾」言及である。

民主党の新綱領にある「台湾海峡両岸問題の平和的な解決」がそのまま使われているが、中国政府がしばしば用いる「台湾海峡の平和と安定」なるフレーズとの組み合わせにより、中国の怒りを最小限にとどめたい日本政府への配慮をにじませている。首脳会談においては、台湾有事を想定した日米軍事協力について、かなり突っ込んだやり取りが交わされたに違いない。

おそらく、この合意の意味するところは、中国が台湾に侵攻するようなことがあれば、日米が協同して、介入するということであろう。違憲の批判を浴びながらも、集団的自衛権の行使を容認し、安保法制を策定した日本政府が日米同盟において一歩を踏み出したわけである。

菅首相は4月20日の衆院本会議で、台湾問題に言及した共同声明に関し「軍事的関与などを予断するものでは全くない」と答弁したが、これは国内向けの発言であり、素直には受け取れない。

もちろん、台湾有事を防ぐための外交努力がなにより肝心だ。武力行使は無益であり、日米ともに、そんなことはしたくないはずだ。中国とて、経済を犠牲にしてまで、日米を敵に回したくはないだろう。

だが、現実に中国軍機などが威嚇行動を繰り返している以上、楽観はできない。いざコトが起これば、沖縄や横田、横須賀、佐世保から米軍は台湾の支援に向かうだろう。嘉手納など沖縄の米軍基地が先制攻撃される恐れもある。

日米安保条約の想定する重要な事態にあたって、日本がなにもしなければ、同盟関係は成り立たない。さりとて、安保法制の「存立危機事態」だとして、米軍と行動をともにしようものなら、中国は日本に報復攻撃を仕掛けてくるだろう。

いずれにせよ、台湾有事は日本有事だ。遠く離れた米国より、日本に大きな影響が及ぶのはいうまでもない。中国は中距離核兵器の配備を進めているが、その射程から見て、主なターゲットは米軍基地のある日本だ。

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