イランが敵対してきた周辺国との“和解”に舵を切った裏事情

 

アメリカでバイデン政権ができ、トランプ外交をひっくり返すかのように、中東諸国との距離感が生まれ、“特別な同盟国”というサウジアラビア王国の立場も不安視されるようになり、また外交的な成果を目指すためにイランとの対話姿勢を取るバイデン政権への警戒心が強まったことで、サウジアラビア王国は漂流することになりました。

ゆえに、これまで以上に中国に接近し、ロシアとの対話も再開して、地域におけるリーダーとしての地位を守ろうとしています。さらには、憎きトルコとの対峙のため、トルコと正面から対峙するバイデン政権とも適当な距離を保ちつつ、トルコと面白い関係にある中ロに取り入ることで、トルコが仕掛けてくるちょっかいを軽減させたいとの思惑も働いています。

そのトルコの存在が、今回、イランとの“接近”にもつながっていると思われます。何度かお話ししていますが、シリア問題をはじめ、様々な局面でイランとトルコは共同歩調を取っています。現時点では、まだイランとトルコとの関係は、比較的良好と思われますが、サウジアラビア王国はそこに楔を打ちたいと考えたのではないかと推察します。

ではイランはどうでしょうか?アメリカとの対峙、欧州との微妙な関係、イスラエルとの歴史的な敵対関係と緊張の高まり(核戦争の可能性含む)、そして周辺を敵に囲まれるという緊張、経済状況の落ち込みといった、多くの負の要素に囲まれているのが現状です。

イスラエルとの歴史的な対峙については、トランプ政権下で、アラブ諸国がイスラエルとの国交樹立に走り、イラン包囲網に加わることに危機感を感じ、最終手段として、スンニ派サイドの雄であるサウジアラビア王国との協議に臨むことで、その流れ(イスラエルとの接近と対イラン共同戦線)を止めるか逆流させたいという思惑が見えます。

それに加え、宗教的な部分での折り合いは難しいとしても、周辺諸国との関係改善は、欧米諸国によって課せられる経済制裁で落ち込む経済のブーストになるのではないかとの思惑もあるようです。

経済的な側面では、最近、中国との25年協定が成立し、経済的な安定感は増すと同時に、米中対立の枠組みに乗って、アメリカとの対立構造も明確化できるという外交的な利点も演出していますが、やはり遠いパートナーよりも、隣のパートナーを得ることのほうが、より安定を築けるという思いもあるようです。

しかし、イランサイドには、別の狙いもあります。今回のサウジアラビア王国との協議が不発に終わった場合、翻って、サウジアラビア王国とその仲間たちへの最後通告となる可能性もあります。

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