イランが敵対してきた周辺国との“和解”に舵を切った裏事情

 

今、ザリーフ外相がThe Economist誌とのインタビューの音声がリークされるという騒ぎになっていますが、そこで述べられた『イランでは外交的な路線よりも、どうも軍事的な成果ばかりが優先されている』との不満は、いろいろな憶測を呼び起こします。私には、これは現実を嘆くとともに、同時に『外交努力が不発に終わったら、もう革命防衛隊が何をするか、自分には責任が持てないよ』という脅しにも聞こえます。

実際のところはどうかわかりませんが、来週のイラン核合意をめぐる協議を前に前向きの姿勢を示したいという外交的な意図と、周辺諸国およびイスラエルに対する硬軟交えたメッセージにも見えます。

アメリカも欧州各国も一様に対話姿勢を評価しているようですが、アメリカは、国内からの圧力とイスラエルからの要請もあり、イランへの強硬姿勢は崩していません。イランの後ろ盾になっている中ロ(核合意の当事国)は全面的にサポートしているようですが、同時にイランという、中東地域における勢力拡大に欠かせない友人を手放さないという意図も明確に示しています。

そのパワーゲームの全容は、来週の核合意に関する協議を通じて見えてくるものと思われますが、一つはっきり言えるのは、アメリカがイランを攻撃する可能性は、トランプ政権時に比べ、はるかに低くなったということでしょう。

強硬姿勢は崩していませんが、その中でも対話と協議の姿勢は明確に示しており、前回の核合意に対する協議でも、非公式で(アメリカは離脱しているので)直接対話が開かれていますし、何とか解決の糸口を見つけたいとの思惑もあります。何しろ、バイデン大統領にとっては、自らが副大統領を務めたオバマ政権下での数少ない外交的な“成果”が、イラン核合意でしたから。

ただ、そのアメリカの曖昧な姿勢が、今、先述の通り、アラブ諸国のアメリカ離れを加速しているのも確かです。その波は、アメリカ国内に絶対的なロビーが存在するイスラエルでさえも襲っています。そのイラン包囲網と、それに並ぶトルコ包囲網の結束の緩みを突いてきているのが、エルドアン大統領のトルコと、中ロです。

そして、バイデン政権も、逆に、トルコへの挑戦状を通じて、中ロに“中東に手を出すな”というメッセージを送っていると読み取れます。今週報じられたニュースで不可解だったのが、バイデン大統領が正式に、第1次世界大戦時に行われた、現在のトルコの前身であるオスマントルコ帝国による“アルバニア人虐殺と死の行進”を『ジェノサイド』認定したことです。なぜ、あえて今、第1次世界大戦時の、それも現在の国家の前身の政体が行った蛮行を持ち出してきたのか?

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